星を超えた想いを36【オリオンの刻印】 (ページ23)

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私情ページ23

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イナズマジャパンのスローイングから試合がリスタートされようとされていた頃、パスを繋ぎやすくするために、中盤で待機をして出方を伺っていた灰崎とAの間には、何やら不穏な空気が漂っていた。

「そんな目で見ないでよ」

「お前が訳わかんねぇこと言うからだろ」

「失礼ね」

眉を八の字に寄せて顰めると、腰に手を当てふいっと顔を逸らすA。数刻前に告げられた彼女の唐突過ぎる発言に、灰崎は状況が飲み込めないでいた。

「だいたいさっきまで間違ってるとか、やり方を正すとかなんだの言ってなかったか？」

「もちろんやり方は正すわよ。この試合にも絶対に勝つ。それで、マリクくんたちの目も覚まさせる」

呆れた灰崎の視線を横目に感じながら、Aは両手を広げ、手のひらを照りつける太陽に向けた。まるで砂漠の真ん中に立って、雨が降ってくるのを待ち受けている人のように。

「お前、自分が無茶苦茶言ってる自覚あんのか？」

そこで意識を切り替えたかのように眩しい日差しから顔を逸らしたAは一瞬、流し目で灰崎を見てから「あるよ」とだけ回答した。

「でもね、このままじゃダメなこともわかるの」

彼女の中で、様々な気持ちが錯綜していた。

オリオン財団の理念や裏側を自分で見て、体験して実感したからこそ、何をどうすれば正解に繋がるのか、Aは分からなかった。まるでゴールのない迷宮にでも迷い込んだような気分だ。

「自分の心を偽ってあんなことをやり続けていたら本当のサッカーを見失って、それこそいつか心が壊れるかもしれない。……一星くんの時みたいに」

「(…そういうことかよ)」

だが灰崎は、その名前がAの口から出ると、今まで複雑に絡み合っていた糸が繋がった。何故彼女がそこまでロシアを気にかけるのか。その意味がなんとなくだが、容易に想像出来たのだ。

「だから助けてあげたいって、そう思った」

真剣な瞳で訴えかけてくるA。話のアウトラインを理解するとそれが気に食わなかったのか、灰崎の顔は明らかに機嫌を損ねたものになっていた。

「やるなら勝手にやれよ、俺は知らねぇぞ。これ以上面倒事に巻き込まれんのだけはごめんだからな」

きつい目をして、突っかかるような口調でAに放った灰崎は、それ以上何も言わなかった。

「…うん」

急に様子が変わったことに気になりはしたが「協力はしない」態度からそう受け取れると、余計な追求はせずに前を見据えて、彼女は静かに頷いた。