星を超えた想いを36【オリオンの刻印】 (ページ13)

今日:6 hit、昨日:13 hit、合計:134,232 hit

無傷ページ13

❀

人々が悲鳴に近い抗議をあげる。その矛先は、ロシアのアース選手の額に真上からファイアトルネードを打ち込んだ小僧丸に向けられていた。

会場を包まんとするほどのブーイングの嵐をもろともせず、彼は仲間たちに背を向けるとフィールドを去る。

「明日人！」

重症のアースが、駆けつけた救護班により担架で運ばれて行く。すると今まで、あまりのショックに放心していたAは我に返ると悲痛な声で名を呼び、後に続く。今度ばかりは、誰も止めはしない。

その間にも、得点板を映すモニターの画面が切り替わり、ボールがアースの額に直撃する瞬間を捉えた衝撃映像が流れ始める。

＜これは……まともに蹴りを食らったようなものですよ。アースに深刻なダメージが残らないことを祈ります＞

ブーイングが激しく飛び交う中、痛ましいラフプレーについて、角馬は苦渋の表情で実況した。ロシアベンチでは運ばれたアースと、それを心配して駆けつけた日本選手、日暮が傍に寄り添っている。

二人の間に何の関係性があるのか、気になりはした角馬ではあるが、今向けるべき論点はそこではないと判断して、追求はしなかった。

「明日…っ。アースは大丈夫なんですか？」

担架の上で寝そべるアースを深刻な表情で見つめながら、Aは傷の具合を確認する救護班に訪ねた。すると一通りアースの容態を見た男が、顔を上げてもう一人の男と頷き合うと、口を開く。

「ただ気を失っているだけのようです」

「え…気を失っている、だけ？」

目を大きく見開き、拍子抜けをしたような頓狂な声で聞き返したAに、男達は静かに頷くと、気を失っているアースに視線を落としたまま説明をする。

「あれだけ強い衝撃をまともに食らったのに擦り傷以外の損傷は見当たりません。奇跡としか……」

「でも確かに、あの時頭に直撃したはずじゃ」

あの蹴りをまともに食らって無傷なわけがない、と信じられなかったAは四つん這いのままアースの顔の横へ移動すると、黒いバンダナの上から手を乗せて、優しく撫でながら額の腫れ具合を確認する。

「腫れて、ない」

なるべく痛まないように優しく触れていたが、彼らが言うようにコブのようなものも感じられず、本当に擦り傷以外の怪我はしていなかった。

「もしかして……手を、抜いたの？」

額からそっと手を離してその手を見つめながら、Aは返答のない質問の答えを呟くように求めた。そうでなければ筋が通らないとでも言うように。