ひとときの休息 ページ2
❀
「試合が終わったら洗いざらい吐いてもらうぜ？」
銀目の猫のように丸い瑠璃色の眼をみはったまま固まる彼女を横目で一瞥した灰崎は、そのまま畳み掛けるような言葉を放つ。
「記憶…戻ったんだろ」
「どう、かな」
「しらばっくれるんじゃねーよ、バレバレだ」
勘を探るようなまどろっこしいことは自分の性にはあわないと理解した上で、試しに人差し指で暗い表情を見せるAの額をつつく。
「怒ってる？」
「何のことだ」
「ずっと黙ってたから」
「別に…気にしてねーよ」
顔色を窺うように下から顔を覗き込んでくるAに、灰崎は腕を組み直すとそっけない返事をする。だが不思議とその声色に棘は含まれていなかった。
「本当に？」
「あぁ」
「本当に本当？」
「同じこと言わせんな。うぜぇーからやめろ」
不安なのか、何度も同じ言葉を繰り返してくるAに顔を顰めた灰崎は釘を刺す。
一方の彼女は「ごめん…」と呟いてから覗き込むのをやめて体勢を戻すと再び頭を俯かせて黙り込む。眉根を垂らす情けない姿を流し目で見ていた灰崎は、視線を遠くに預けたまま深い溜息を吐いた。
「ま。お前が " バカ "みたいな面で抱え込むのは、何も今に始まったことでもないからな？今更だろ」
「なっ…！」
意地の悪い笑みを口元に浮かべて、鼻で笑い飛ばした灰崎は頭の後ろで手を組むと平然と歩いていく。
その反動でAから掴まれていたユニフォームの手も自然と離れるが同時に、不満そうに真っ赤な頬を膨らませた彼女の顔が後ろ目に見えていた。
「バカってひどい！もっと他にあるでしょ？」
「アホ」
「同じじゃない！」
先を歩いていた灰崎に追いつき、そのまま後ろ手を組みながら隣に並ぶA。上体を前に倒した状態で、横から覗き込むように、茶化してくる彼にたいして文句を言うが、まるで相手にされない。
「少なくとも灰崎くんよりは頭いい自身あるし」
「どうだかな」
「フィールドの悪魔を自称する人よりはマシよ」
「あぁ？」
緊迫とした状況下だというのに、二人の表情は言葉とは裏腹に楽しげに和らいでいた。お互いに何気ないそのやり取りを懐かしむように目を細めている。
何より、歩幅の違う二人が同じ位置で自然とした姿で歩いていられるのは、灰崎自身が合わせるようにスピードを落としたからだろう。
──お前が無事なら……俺は
(ん…何か言った？)
(言ってねぇ…。いいから早く行くぞ)
(あ…ちょ！待ってよ灰崎くん！)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年7月16日 12時
