境遇 ページ6
❀
「ありがとう明日人、Aも！」
話したいことがある、と言われてAと明日人がマリクの後をついてやってきたのは室内グラウンドに設備されている観客席だった。
突然立ち止まったマリクから視線だけで座るように促されると、二人は顔を見合わせて戸惑い気味に腰を下ろす。
「明日人はやっぱり凄いよ！」
「マリクもね、正直驚いた！」
「ほんと？嬉しいなぁ…！日本代表の明日人に褒められるなんて今日は最高だな！」
両腕を横に広げて、嬉しい気持ちを体で表しては人懐っこい笑みではにかむマリク。オリオンの候補生と言われなければ、一瞬その事を忘れてしまいそうなほどに純粋な少年だ。
「……ねえ、マリク。
マリクはなんでオリオンに入ったの？」
「ちょっ…！ちょっと明日人！
そういうデリケートな話は聞かない方が」
何の前振りもなく唐突に問いかけた無神経な明日人の発言に、さすがのAも洋紙のように顔色を蒼褪させてフォローに回ろうとするが、時既に遅し。
「いいよ、別に。気なんて遣わなくても」
「マリクくん…」
申し訳程度にAがマリクの顔を横目に一瞥すれば、やはり癇に障ってしまったのだろう……先程のような嬉しそうな笑顔が嘘のように消えていた。
「オリオンは悪い奴等なのになんで、って意味？」
「え、いや…あ…そんな」
「いいんだ、分かってる」
突き放すような冷めた声。そして的を得るような返し方に、明日人は言葉を詰まらせてしまう。言わんこっちゃないと、Aはその隣で頭を抱えている。
「僕達は暗く貧しい裏路地で鼠のように生きてきた。生きるために、残飯だって漁った。盗みだって働いた！生きることだけで精一杯だったんだ」
相手の気持ちに釘を打ち込むように放たれた力強い言葉はAの胸に痛いほど浸透する。
そして同時に、生まれた国が……境遇が違うだけでこうも変わるものなのかと痛感した。
「でも、オリオンはそんな僕達を拾ってくれた！手を差し伸べてチャンスをくれた！今の僕はちゃんと生きてるって堂々と言える！心から" 生きていてよかった "って感じる！」
小さな手のひらをこれでもかと言うほど真剣な瞳で見下ろしてから握り拳をつくる。幼い見た目とは想像のつかないほどの声にも堅い意志がうかがえた。
(サッカーをやれて＿＿幸せなんだ)
(だからマリクくんは戦うのね、一人の戦士として)
(そうだよ、さすがA。やっぱりいい人だ！)
(…いい人なんかじゃないよ)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 211人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
