星を超えた想いを34【オリオンの刻印】 (ページ45)

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手段ページ45

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お昼の十二時を知らせる鐘の音が部屋に響き渡る。飲み終えたフロイのカップを回収したグスターブは、用を済ませるとカートを引いてその場から去っていく。

そんな彼の背中に向かってAは、人差し指で目尻を垂らし「べっ」と舌を控えめに出しながら睨みつけていた。その姿は悪戯っ子な子供そのものだ。

「調子はどうだい、フロイ」

ベルナルドは、そんな彼女の幼い姿を目の当たりにすると、ふっ。と優しく口元を綻ばせる。そして視線を隣にいるフロイへと移して本題に入った。

「日本戦に向けて順調に仕上がってますよ」

「そうか…」

ソファーの上で膝立ちになっているAとは違い、フロイは両手を膝に置くと落ち着いた口調で、オフィスチェアに深く腰掛ける兄に近況報告を行った。

「(兄弟なのに敬語なんだ……)」

どこかよそよそしい会話を聞いたまま、大人しく座り直したAはこの兄弟の間に分厚い壁のようなものが隔てられているような気がしてならなかった。

「(やっぱりあんまり仲良くないのかな…フロイもお兄さんのこと話したがらなかったし)」

そんなことを思っていたせいか、Aは不意にベルナルドと目が合ってしまう。だが、すぐに顔を逸らすとティーカップを手に取って唇を押し当てた。

「" オリオンの力を使え " 」

「…ッ!?」

虚を突くように発せられた言葉に、フロイは至って冷静に聞き返していた。だが、その隣で紅茶を飲んでいたAは喉を詰まらせかけてしまう。

「A、大丈夫？」

「へ、平気…」

はぁ…と息を吐いてから、聞き捨てならない台詞を告げた張本人、ベルナルドに視線を移す。飲みかけの紅茶には、狼狽の色を隠せず動揺しているAの顔が浮かんでいた。

「これはロシアの勝利を確実なものにするためだ」

椅子の背もたれに深く凭れかかり、肘掛に頬杖をついたベルナルドはつり上がった白藍の瞳を細めながら二人を見据えてそう言った。

「アメリカ戦では兄さんに譲ったはずです」

固い信念を持った真剣な面持ちで話す兄にたいして、フロイは困ったように眉根を落とす。そして首を静かに振ると、ソファーから立ち上がった。

「心配いりませんよ、我々ロシアは必ず日本に勝つ。だからいつも通り、自由にやらせてください」

デスクを挟んで、オフィスチェアにふんぞり返る兄と向かい合うように歩み寄ったフロイは、屈託のない目を細めて優しい笑顔を一面に浮かばせる。

彼の顔に、迷いの色は一切見えなかった。