星を超えた想いを34【オリオンの刻印】 (ページ43)

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某所にてページ43

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ロシア某所。オリオン財団本拠地の一室にて。

サッカービジネスを改革し、今や世界中から支持を受けているオリオン財団の頂点に君臨するベルナルド・ギリカナンは自室のオフィスチェアに優雅に佇んでおり、普段と変わらぬ調子で客人を出迎えた。

「やあ、A。会いたかったよ」

「私は会いたくなかったです」

目前にいる弟には目もくれず、執事のグスターブと共にあとから中に入ってきた少女を視界に入れた途端、ベルナルドは微笑みを頬に浮かべていた。

「相変わらず辛辣だな。…まあいい、座りなさい」

「いらないお気遣いをありがとうございます」

「(その減らず口が一体どこまで続くのか見物だな)」

相手をソファに座るよう促し、自分はテーブルを挟んで反対側に座る。一方のAは、十四歳には似つかわしくない膨れっ面な表情で歩いていくと、背もたれに凭れるような形でソファーへ腰を下ろした。

「兄さん、弟の僕に挨拶はなしですか？」

「…」

腰に手を当てて少しおどけた様子でフロイが振る舞うも、ベルナルドはそんな弟に関心を示すことなく、視線をその後ろにいたグスターブへと移す。

「グスターブ、二人に飲み物を」

「かしこまりました」

長年仕える執事ということもあり、主から指示を受けたグスターブは律儀に一礼をすると、すぐに飲み物の用意に取り掛かった。どうやら給仕の役目も果たす忠実なしもべということらしい。

「はぁ…まあ期待はしてなかったけど」

「ねえ、フロイ。お兄さんとは仲が悪いの？」

「え？あぁ…うん。うちも色々あってさ」

苦虫を噛み潰したような複雑な表情で答えたフロイは優しく目を細めて苦笑していた。

Aは隣に腰掛けた彼を見つめたまま瞬きを繰り返すと、聞いてはいけないような気がしてそれ以上追求しなかった。

「お待たせしました」

「げ…」

巨大な影がAを覆うと同時に老人の声が降りかかる。恐る恐る顔を上げると、案の定グスターブがカートを引いて立っていてまた口から声が漏れた。

そんな彼女の反応など気にもとめず、彼は用意出来た清廉な佇まいで飲み口の薄いアンティークのティーカップに無言で珈琲を注ぎ始める。

「グスターブさんの淹れる珈琲は美味しいんだ」

「へ、へぇ…そうなの」

注ぎ口から流れ出る珈琲の独特な匂いに包まれて、日本とは違う香りに少し鼻を摘むA。

それとは裏腹にフロイはどこか嬉しそうに組んだ足に肘をつき、手のひらに顎を乗せて見つめていた。