抱えた贖罪 ページ41
❀
親友が自分の知らない間に見知らぬ少女に取られていた現状が、認められなかったのだろう。その気持ちが震える拳からひしひしと彼女に伝わった。
「違うよ、私は充を救ってない。あの子を救ったのは、受け入れた日本代表のみんなのおかげだから」
脳が揺れてしまうんじゃないかというくらい、Aは頭を振り乱してそう言った。
「その時の私は充を助けるのが怖くて。誰よりも助けたかったのに……同じくらい助けたくなかった」
まるで自分の贖罪を打ち明ける時かのように切なげに振り絞られたAの声は、静かな廊下に響くには十分すぎるものだった。無論、フロイの心にも。
「……君が光のことを充って、何故頑なに拒んで呼び続けていたのかが僕にはわからなかった。だけどその理由が今の発言でハッキリと分かったよ」
並んで歩くAを横目で一瞥して彼は言った。
──今日で四度目になる。
二度目にも何となく感じていた二人の奇妙な符合に、フロイは今日こそはっきりと思い至ったのだ。
「いいよ。この話はもう終わりにしよう」
「聞かなくて…いいの？追求は？」
ぽん、と肩に手を置いて扉の前で足を止めたフロイからそう告げられると、Aは負い目を感じながらも何度もしつこく問いかけた。
「したいのは山々だけど、また今度にするよ。それよりも今は…その涙を止めるのが最優先だ」
「え…」
そう言われて初めて、Aは気がついた。
ゆっくり頬に触れると指先が流れ落ちた雫に濡れる。近くにあった窓に視線を移せば、自分でも気づかないのが不思議なくらい涙が溢れていた。
「もしかして無自覚だった？」
「う…っ…うるさい！」
顔を覗き込んでくるフロイに強がりな言葉を投げたAは、涙をこれ以上見られまいと背中を向けると、手のひらで流れ出る涙を乱暴に拭い始める。
「そんなに乱暴に拭かない方がいい。目が赤くなる。自然に治まるのを待ちなよ」
「うる、さいってば…」
泣いていることを自覚すればするほど、余計に涙が止まらなくなって目を擦り続けていると、Aはフロイにその手首を掴まれてしまう。
「泣き止むまで、待っててあげるからさ」
「…っ」
熱くなった背に掛けられた彼の声は彼女の心に響くような懐かしいモノがあり、拭ったはずの涙がまた溢れ出てきた事など知る由もないだろう。
そして泣き止むまでの間、フロイの計らいでSPの者達が一時その場から姿を消していたことなどAもまた、気づくはずもなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 211人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
