リミット ページ5
❀
「少し、ほんの少しだけでいいんだ！」
「A、マリクもこう言ってるし少しだけでも」
幼子が玩具を強請る時のように、執拗くせがむマリクに困ったように眉を落として手を焼いていると明日人からも促すような言葉をかけられる。
「…はぁ。分かったわよ」
Aは、情けない顔をする二人を交互に見つめると小さなため息を吐いてゆっくりと口を開いた。
「それが終わったら帰るからね」
腰に片手を当てて眉をへの字に下げたAがそう言って折れた姿勢を見せると、萎んでいたマリクの顔に明るい太陽のような花が咲き誇る。
「本当！？ありがとうA！……へへっ！なんだ、フロイさんが言ってた人と全然違うや！」
「…ところでマリクくん」
鼻を擦り、無邪気に笑うマリクにAの耳がぴくりと欹つ。そして開いていた目を糸のように細ませると、恐ろしいほどの笑顔を向けて口を開いた。
「なに？A！」
「フロイくんは私の事、なんて言ってたの？」
「A、顔怖い」
「明日人うるさい」
目線を合わせるように屈んで屈託のないとは言い難い笑みを続けるAは、横槍を入れる明日人を一言で黙らせると再びマリクへ視線を戻す。
「Aは、人の親友を誑かして奪う最低女だってフロイさんが言ってた！あと、最近スタメンに入れないことを気にしてて仲間を僻んでるってことも！」
目と口元に言うに言われぬ愛嬌をもって満足そうに、得意そうに、罪もなく無邪気に微笑みながら吹き込まれた要らぬ情報を吐き続けるマリクに、Aの額に青筋が浮き立つ。
「へぇ、ふーん。そう」
「A落ち着いて…相手はマリクなんだから」
「分かってるわよ」
感情の篭っていない棒読みに近い声で静かな怒りをあらわにするA。そして両手を前に突きだし、宥めてくる明日人に冷たい視線を向けて息を吐いた。
「でも話に聞いてたのと全然違う！Aはいい人だね！」
天真爛漫で、無垢な瞳を細めて歯を見せたマリクが何気なく放った「いい人」その言葉にAは、物思いに沈んでいるような暗鬱な目を外に向ける。
「…いい人、か」
「A？」
ボソリと呟いた彼女の顔は、横髪に隠れて明日人の位置からは窺えなかった。だが、どこかいつもと違う、哀愁さえ漂わせるAに小首を傾げていた。
(ベルナルド様、本当によかったのですか？)
(構わん。…Aは近い将来、必ず私の元に来る)
(え…？)
(それまで、せいぜい仲間ごっこを楽しむといい)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
