連絡先 ページ34
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「全然似てない」
ボソッと蚊の鳴くような声で率直なまでの感想を呟くと フロイは「へぇ」と意外そうに片眉を上げる。
「そんなこと言ったのは君が初めてだよ。大体の人は僕と兄さんを見たら似てるって言うけど」
「あなた達兄弟は根本的に思考も思想も違うから」
Aがそう放った直後、窓の外からカラスの鳴き声が騒がしく響き始めた。夜にカラスが鳴くことは滅多になく、それが余計に不吉さを際立たせていた。
「私、これでも元監視役だから観察は得意なの」
「それで？いったい何が言いたいのかな」
Aはそれ以上何も言わずに、真っ直ぐな瞳でフロイの顔を静かに見つめていた。
暫く睨めっこが続いていたがその眼差しに負けたのか、降参だとでも言うように両手を肩の位置にまで上げて彼は肩を竦める。
「まあいいや、じゃあね」
その言葉だけを言い残すと、彼は小動物のように怯えているAの頭に数回手を弾ませてから扉に向かって歩いていき、ドアノブに手を掛けた。
「待って！」
「なに？」
部屋を出ていこうとしたフロイを咄嗟に呼び止めてしまう。少し不機嫌そうな声に聞こえるのは、兄と比べられたからだろうかと彼女は思う。
「明日人はどこにいるの？」
「別の部屋にでも隔離されてるんじゃないかな」
「無事、なの？」
「さあね」
そう素っ気なく返事をするとフロイは今度こそ部屋から足を踏み出した…が、すぐに「言い忘れてた」と独り言を呟いてからまたひき返してくる。
「外部と連絡を取り合われるのは色々と面倒だから、寝ている間に連絡先は削除させてもらったよ」
「は？」
スマホを急いで取り出したAは、慌てて連絡帳を開く。
「なっ…なな、な…ッ！」
画面は彼の言う通りほとんどが空白で、唯一オリオン財団の関係者の番号だけが登録されていた。
「ついでに僕の連絡先も登録しておいてあげたから、寂しかったらいつでも連絡してきなよ」
特に悪びれた様子もみせずに言ってみせたフロイにスマホを持つ手をわなわなと震わせると、Aは鬼のように目を尖らせてから顔を勢いよく上げた。
「あんた本当に最低！誰が連絡なんてするか!!」
「ははっ。その言い方は充に似てる」
突然出てきた想い人の名にAは不覚にも心臓を高鳴らせて顔を赤らめてしまう。恐らく狙って言ったのだろう、フロイの口元は楽しげに歪んでいた。
(明日のデート楽しみにしてるよ、おやすみ)
(だからデートなんかしないってばおやすみ!!)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
