銀狼と兎 ページ33
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怪しく光る満月を前に、子ウサギを狙う狼のようなギラついたその眼差しがAの心に不安な予感を過ぎらせて、冷たい隙間風のように吹き込んだ。
「君は僕と行かなければいけないよ」
「脅してるの？」
「そう取ってもらっても構わない」
その眼差しに射すくめられてAは背筋に氷柱を突き立てられるような思いをしていた。
心拍数が上がる度、呼吸が乱れる度に腕に刻まれた印の輝きがその強さを増していく。
「来た方が身の為だ」
「世間的には行かない方が身の為なんだけど」
行動でダメならばせめて口だけでもと、達者なその口を動かして強がりを見せるAだが、ジリジリと迫り来るフロイに、同じように後ずさっていた。
「そういう混ぜ返し、光もたまに言うんだ。光と似てるね。付き合ってたら性格まで似てくるものなの？」
羨望と嘲りの交じり合う不機嫌な声で問いかけられると、Aは固唾を呑んだ。そんな彼女に向かってフロイの手が小さなその頭へと伸ばされた。
「っ！」
反射的に両目を瞑るも、やって来たのは衝撃ではなく撫でられるような優しい感覚。
不思議に思って瞼を恐る恐る開けると、無感動の眼差しを自分へと送るフロイと目が合った。
「明日の朝、部屋まで迎えに行くよ」
「え…」
「兄さんには気づかれないように出ていくから怪しまれないように振る舞うこと、分かったね？」
彼は人を手懐けるのがきっと得意なのだろうと、Aは無意識に首を縦に振りながら、その手の温もりを感じながら思っていた。
片方の目を閉じて、撫でている手とは反対の人差し指を口元に押し当てられると、まるでその言葉が呪文のように耳から頭へ流れ込んでくる。
「(どうしてそんな…)」
粉雪のように白い睫毛とそこに嵌め込まれたブルーアイはベルナルドと酷似しているが、からみつくような兄の放つそれとは違ってフロイの瞳は愁いを帯びていた。
「それと、この事は2人だけの秘密だよ。兄さんにも話してないから……ていうか、話したら是が非でもAを外になんて出したがらないだろうし」
釘を刺すように言ったフロイの手の温もりが消えていくのを感じながら、Aは微かに残っている感触を確かめるように触られたばかりの頭へ自分の手を伸ばして撫でつけていた。
「気になってたんだけどお兄さんって」
「ベルナルド・ギリカナンだよ」
間髪入れずに即答される。心做しかAの目には、彼の周りを纏う雰囲気が変わったような気がした。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
