刻印 ページ27
❀
博物館のひっそりした海底のように暗鬱な廊下でガラスを前に佇む一人の青年と少年。強化ガラスの先にいる少女の呻き声だけが微かに漏れて静寂の廊下に響く。
「趙金雲は頭が切れる。先代の父がよくあの男について話していたからな」
自身の顔が反射して映る窓ガラスに片手を合わせながら静かな声でベルナルドは言った。少し離れた先には彼の弟であるフロイが微かに眉を顰めている。
「奴が日本代表の監督として着任していることを考えると、何かを仕掛けてくるその前に、我々オリオン財団が日本を根底から叩く必要がある」
断固として初心を貫徹する決意を固めていた。父のような理想は追い求めていない。今までのオリオン財団の働きを改革するように立ち上がったベルナルドは、趙金雲が所属する日本に狙いを定める。
「二日後の試合は任せたぞ」
ガラスについていた手を滑り下ろすように離したベルナルドは踵を翻す。そこで初めて、血の繋がった弟と向き合うように立つとそう言い聞かせる。
「もちろんです、兄さん」
「万が一負けた場合、どうなるか分かっているな」
「はい」
気持ちを悟られないように、笑顔を取り繕ったフロイは心地よく首を振って頷いた。兄の言葉には有無を言わせない力強さがあり、圧さえ感じられる。
「(ごめんね、光。君の悲しむ顔は見たくないけど…もう少しだけAを利用させてもらうよ)」
実験室の中へ足を踏み入れていく兄の後ろ姿を見つめるフロイのその瞼には深い哀愁がこもっていた。
『はぁ、はぁーッ……は、ぁ……』
彼女にとってはまさに、地獄のように長い時間だったことだろう。焼けるようなその痛みに耐えかねた少女は浅い呼吸を繰り返すと、やがて気を失って背もたれにぐったりと頭を預けていた。
「終わったか」
不敵に笑ったベルナルドが明かりがつけられた実験室の中に足を踏み入れると、意識を失っている少女の元へと歩み寄る。額には拭いきれないほどの大量の汗が流れており、髪の毛がへばりついていた。
「おめでとうA。これでお前は晴れて、オリオン財団に貢献する刻印を持つ戦士の一人となった」
「……」
「手枷を外せ」
ベルナルドが指示をすれば、中に入った研究員の者達によって拘束が解かれた。肘掛に置かれていた少女の片腕が力なく垂れ下がる。その腕には、財団の印を証明する"刻印"が青々と浮かび上がっていた。
(稲森明日人、日暮Aはオリオンの一員になった)
(……)
(これは彼ら自身の意思だ)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 211人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
