還る場所 ページ22
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ごくり、と白い喉が動く。突拍子もない行動に呆気に取られているうちに、意識が朦朧として彼の姿は靄がかかったように見づらくなる。
｢(瞼が…重い)｣
今を逃したらもう二度と目の前の少年に会えなくなるような気がして、Aは必死にこの世界に留まろうとするが、後ろから彼自身の手により目を覆われ視界が暗闇に包まれた。
｢俺は、もう行きます｣
覆う手の真上から降りかかった寂しげな声。それは今にも泣いてしまいそうな悲愴なものだった。
｢どこに？｣
震える唇を開いて、恐る恐る問いかけた。次の答えを聞くのが怖いのか彼女の呼吸は乱れ始めていた。
息遣いを聞きながら、視界を覆われたままAは充によって湖のさらに奥へと歩かされる。
｢俺はこの世界に長くは居られない。そもそも俺の居場所は…ここじゃないから｣
Aは抵抗するようにもがくと、充は数歩後ろによろけてしまう。湖の中という感覚はほとんどないが、水が後退していくのがわかった。そして腕が緩んだその隙に彼女は、振り返ってこう言った。
｢それなら、私も一緒に行く！｣
｢A…｣
｢充を一人になんてさせられない！｣
真剣な顔と揺るぎない決意に満ちたAの瞳を前に、充は目を大きく開いた。そして何か言いかけるように口を開いていたが、声を発する前に言葉を飲み込むようにして下唇を噛んだ。
｢早いんだ、Aには｣
｢早くなんかない！私は充とならどこでも行く！｣
果てのない湖の先を見据えるようにして目を細めていた充は儚げな顔で首を横に振り、言った。
｢なんとか言ってよ！｣
何か大切なものを失ってしまうような気がして、Aは充の手を咄嗟に掴んだ。人間の体温とは思えない冷たい彼の手に益々現実を突きつけられる。
｢好きなの｣
｢ダメだ｣
｢充と…一緒にいたい｣
｢ダメだ!!｣
その声はAの頭の上から大磐石のように圧おしかかって来た。思わず肩を萎縮して怯んでしまう。
｢！…すみません｣
はっ。と我に返った充が頭を俯かせて謝った。それは怒鳴ったことについてのものなのか、別のことについての謝罪なのか、Aには分からなかった。
｢でも、俺はずっとAのそばにいる。離れていてもちゃんと傍で見守ってる…だから｣
｢さっきから充の言ってる意味、全然わかんないよ!!｣
両拳を肉がくい込むほど握り締めて、上半身を前に突き出すような形でAは声を振り絞る。肩を上下させた彼女の顔は、酷く傷ついていた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
