星を超えた想いを34【オリオンの刻印】 (ページ3)

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劇場の奈落のように、裸の壁が裸の電球に照らされた、殺風景な廊下に静かな靴音が響く。監視カメラが至る所に設置されており、睨みを利かせている。

一人で歩いていても四方八方から見られているような視線を感じていた。オリオンの使徒を育成する練習場ということもあって、警備は厳重だ。

「(オリオンのやってることは間違ってる。今までしてきたこと、忘れたわけじゃない。許すことなんてできるわけない。でも)」

途方にくれたように、突然足を止めた。廊下の外からは室内グラウンドで汗水垂らして練習に精を出すオリオンの候補生たちの声が聞こえている。

「(本当に悪だと思っていたのは私たちだけで、世界中の人たちは、そんなオリオンを……)」

ふと、反射した窓ガラスに映っていた自分と視線が絡んだAは、そのまま導かれるように向かい合う。ガラス越しに映る彼女の顔は、先程まで泣き腫らしていたこともあり、見るに耐えない。

「(ハオくんのことだって……一歩違えば、オリオンに拾われて私達と敵対していたかもしれない)」

涙の跡が残る頬に触れて、Aは思う。立場が変われば正義は悪になり、悪は正義になる。どちらが正しいかなど天秤にかけることはできないのだ、と。

「(そうよ、天秤にかけられるわけない。大切なのは自分の意思。自分が正しいと思う方に行かなきゃダメ。迷う必要なんかない、私の居場所は＿＿＿)」

決意を固め、俯きかけた顔を上げる。そして、額縁のような窓に顔を寄せた、次の瞬間。

透明なガラスから透けて見えた先のグラウンドに、見慣れたシルエットの選手が走っていくのが視界に横切った。

「え…？今のって」

ガラスに両手をつき、ギリギリにまで顔を寄せて目を凝らした。寝癖のように跳ね上がった黒髪、日本代表を示すジャージ。そのどれもに見覚えがある。

「明日人！？」

いるはずのない仲間が、確かにそこにいた。確かにそこにいて、Aが見える三階の窓の位置から、候補生達とサッカーのミニゲームをしている。

「(昨日、黒服の男達に連れ去られたのは私だけのはず。どうして明日人がオリオンの練習場なんかに)」

可能な限り昨晩起きた出来事を思い返そうと、Aは瞼を閉じて頭痛を起こす頭に構わず、タイムリープをするように脳の記憶を探った。

そして＿＿

「まさか！」

嫌な予感が頭を過った頃には、シュートを決めて見知らぬ少年とハイタッチを交わす明日人を一瞥して、一目散に駆け出していた。