良い人 ページ13
❀
｢連れて行け」
真人が指示を出せば、男達は倒れた明日人を肩に担いで暗闇の中へと歩いていく。
「ま、待って！明日人をいったいどこへ連れていく気なの！？どうしてこんなことするのよ！」
段々と遠ざかっていく男達の背中に向かって、掴まれていない手を思いっきり伸ばしても、二人の距離は開くばかりで縮まらりはしない。
「今更何言ってるの？｣
突然聞こえた、何の色もない無感動な声にAの背中が凍りつく。顔を恐る恐る振り返れば、顔を上げてじっと見つめていたであろうマリクと目が合う。
｢ま、マリク…くん？｣
「僕達が易々君を逃がすと思う？」
貼り付けたような綺麗な笑みに末恐ろしさを感じ、視界がふらつく。腕を掴む小さな手は逃がさないと言わんばかりに力が込められていて喉から息が漏れる。
｢Aは"良い人"だからこの意味、分かるよね？｣
｢い、良い人なんかじゃ…ない｣
｢" 僕にとっての良い人 "｣
" 良い人 " それは、マリクがAと対面した時から度々口にしていた言葉。やけに良い人、と言ってくるマリクにずっと、何か喉に引っかかるようなむず痒さを感じていたA。
その意味を悟った頃には、絶望という名の黒が目の前に墨を垂らしたように広がり侵食していく。
「ッ…だ…誰か！」
言い様のない恐怖に追い詰められ、たまらず辺りを見回しながら助けを求めたA。
しかし、周りには助けを求められる者はおらず、入口からは黒いサングラスを掛けてスーツを身に纏う強面の男達ばかりがゾロゾロと集まってきた。
｢助けて！話と、違う…っ｣
｢Aは良い人だから人を信じやすいんだ｣
｢！｣
｢でも大丈夫、僕達の仲間になれば全部解決する！｣
無邪気な笑顔を見せて、残酷な言葉を突きつけたマリクは、涙を目に浮かばせて絶望するAに向かって背伸びをすると、先程彼女がしたように頭に手を伸ばして｢いい子いい子｣そう言って手首を離した。
「連れて行け｣
「い、やだ…ッ！やめて、離して!!｣
真人の合図で、男達は一斉にAを取り押さえる。暴れ、抵抗する彼女の力など大人の前では無に等しい。
｢この際だ、手荒な真似をしても構わない。だが後々あの方に何を言われるかわからん、加減はしろ｣
一人の男が両腕を押さえられた彼女の鳩尾に拳を沈めれば、苦しそうな声を上げたAは大きく目を見開くと、痛みに顔を歪めて静かに意識を手放した。
(手間をかけさせやがって)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年6月14日 5時
