特別に ページ1
❀
「才能が、ないことくらい…わかってる!」
振り絞った声は情けないほど弱々しい。いままで、心の奥底に押し込めていた気持ちがあふれるようだった。片腕で目を覆い隠して嗚咽を繰り返す。
「私はみんなとは違う…っそう思っててもやっぱり、来たばかりの人に活躍されて、突き放されたりしたら嫉妬だってする…」
隠れた目と腕の隙間からはいくつもの雫が氷の結晶のように零れ落ち、皺ひとつないシーツを濡らした。そんな彼女の上に覆い被さるは一人の青年。ここまで追い詰めた張本人でもある。
「生まれもったビジネスの才能を持つベルナルドさんなんかに…私の気持ちが分かるわけないッ!」
嗚咽する声を食いしばり、喚くように言葉を放つ。あたっても仕方が無いことくらい分かっていた。しかし、目の前にいる男のせいで抑えていた気持ちも、何もかもが掻き回されたのだ。
「私だって…頑張ってる、のに」
消え入りそうな声で呟いた__刹那。
──『頑張るのは当たり前よ、そんなの誰だってやってるわ。結果を出さなきゃ意味が無いの』
「…!」
Aは放ったばかりの自分の言葉に息を飲んだ。同時に、脳の中で声が聞こえた。それは紛れもなく、聞き飽きた自分の声であり、過去に放った言葉。
呼吸が一瞬、止まったかのように思えた。
──『私だって頑張ってるのに・・・どうしてAにそんなこと言われなくちゃいけないの!?』
いつだったか__伊那国メンバーともまだ打ち解けていなかった頃。Aは、涙も拭かず目を赤く腫らしたままの海腹のりかに怒鳴られたことがあった。
「(こんな気持ちだったんだ……苦しくて、辛くて。 ずっと頑張ってたのに、誰にも認めてもらえなくて……それなのに)」
───『こんなこと言いたくないけど、のりかちゃんにはキーパー・・・向いてないかもしれない』
その時の立場になって、今、ようやく気づいた。あの時、怒りながら涙したのりかの気持ちを。自分がいかに、愚かなことを口にして彼女を傷つけていたのかを。
「(私……こんな、嫌な女だったんだ)」
心底、性格の悪さに嫌気がさす。
今更押し寄せてきた罪悪感に
Aは言葉も紡がずに、静かに泣き続けた。
「A」
今まで外の意識をシャットアウトしていたA。名を呼ばれると、一気に現実へ引き戻された。
そして同時に目を覆っていた腕も引っ張られてしまう。横になっていた体は勢いよく引き寄せられて、代わりに硬い胸板に頰があたった。
211人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:小雪 | 作成日時:2019年6月14日 5時