星を超えた想いを32【オリオンの刻印】 (ページ29)

今日:4 hit、昨日:8 hit、合計:123,437 hit

安心ページ29

❀

「とにかく今は中に入りましょう。ロシアの夜は日本とは比べ物にならないくらい寒いので」

そんな彼女の気持ちを察したのか光は静かに目を伏せると、またすぐに開いて彼女の頬から手を離す。温かかった手の温もりが頬から離れていく。

「ほら、先輩の手もこんなに冷たい」

「あ…っ」

「早く中に入りましょう、俺が温めます」

重力に逆らわず垂れ下がっていた両手を

光に優しく包み込まれるように握られる。

温めるように触れてくるその手に

Aは恥ずかしそうに頬を染めて

きゅっと下唇を噛んでから小さく頷いた。

光に手を掴まれ、誘導されるようにAは自らの部屋に足を踏み入れた。後で片付けようと思って散乱していた資料は机の上に綺麗に纏められている。

汚い部屋を見せてしまったことに少しだけ恥ずかしさを覚えたのは秘密だ。

「ごめんね、片付けてもらっちゃって」

「気にしないでください、纏めただけですから」

「それでも申し訳ないよ、ありがとう充くん」

「礼には及びません」

ふっ。と目元を柔らかく細めて微笑むと、光は先にシングルベッドに腰を下ろす。そんな彼を静かに見下げているとシアン色の瞳と目が合う。その目はまるで「おいで」とでも言うよな眼差しだった。

「充くん、ここ私の部屋だよ」

「知ってますよ、そんなこと。ほら先輩」

困ったように眉を落とし、頬を緩ませるとAもまた、おずおずと誘われるように光の隣に座る。そして掴まれていた手をそのまま引き寄せられる。

「A」

「充くん…」

ふわりとした温もりと共に腕を回され、Aは抱きしめられた。囁くように名前を呼び合うと、子供をあやすような優しい手つきで呼吸音に合わせて背中を優しく撫でられる。

「温かい……」

「Aの体はすごく冷たい」

「ずっとロビーにいたからかな」

「そうかも」

人は不安な時、辛い時。抱きしめ合うことでそれも軽減されるとどこかの本で読んだことがあった。壊れ物を扱うかのように抱きしめてくれる光に、Aは安心して心を落ち着かせることができた。

「充くん、一つだけいい？」

「ん？」

「その……もっと、抱きしめて？」

「今日はやけに甘えん坊ですね」

恥ずかしそうにお願いしたAが

愛しくなり、光は頭を撫ると要望に応える。

二人の間に空気の分子が入らないほど

ぎゅっと抱きしめる。

お互いの心臓の鼓動が聞こえても気にすることなくAと光は互いの首筋に顔を埋めた。