謝罪の理由 ページ26
❀
一人にさせてと、彼女は言った。
だが、目の前で肩を震わせてみっともなくしゃくり声をあげて泣いている少女を放って寝床につけるほど灰崎も悪魔ではない。
「A」
「灰崎く…」
撫でるような優しい声で名を呼ぶと、僅かに小さな肩が反応する。その隙を見逃さず灰崎は後から彼女の腕を掴むと、そのまま引きずるようにして無理矢理顔を自分の方へ向かせた。
「おもいっきり泣いてんじゃねぇか」
「やだ、離して！」
「喚くな！俺が泣かしたみたいだろうが」
暗闇の中でも瞳から溢れる涙が見える。
赤く腫れた瞼は言うことを聞かずに擦った証だ。
腕を掴まれたAは身を捩って
抵抗を試みたが、敵わなかった。
それどころか、もう片方の腕も掴まれる。
「ごめ、ん」
「一々謝ってんじゃねーよ、クソ女」
「またクソ女……」
潤んだ瞳で視線を逸らし、眉を垂らして落ち込むAの額に拘束を解いた手で灰崎が軽くデコピンをかませば、彼女は小さな悲鳴を上げて睨みつけた。
「クソだからクソ女って言ってんだよ。記憶がねぇくせに……ほんと、バカすぎんだろお前」
「はあ？」
頭を俯かせて理不尽な言葉を投げかけた灰崎に、涙すら引っ込んだAは先程まで理由もわからず彼で泣いていたかと思うと無性に腹が立った。
周りが暗いことや髪が長いこともあり灰崎の顔色を窺うことはできない、が。Aは拘束の解けた片方の腕で残りの涙を拭うと口を開く。
「な、なんなのよバカとかクソ女とか！灰崎くんさっきからそんなことばっか……り、」
言い終わる前にAは灰崎によって掴まれていた腕を勢いよく引き寄せられた。無論、体勢を立て直すことができるはずもなく彼女の体は前に崩れる。
薄い身体は腕の中にすっぽりと納まった。そのまま溶けて消えてしまいそうに儚い温もりを感じながら灰崎は小さな肩に顔を寄せて、目を閉じた。
「は……っい、ざきくん？」
耳元で困惑するAから名前を呼ばれると、灰崎は何も言わずに頭を掻き抱いた。
そして押し返そうと抵抗する腕を抱きしめる力を増して押さえつけると、子供をあやすような優しい手つきで背中をゆっくり優しく撫でつける。
「悪かった……A」
「え…？」
歯を食いしばるように声を振り絞り
そう囁くと、抱きしめる力を込めた。
だがそれもほんの一瞬で
すぐにまた体を引き離す。
そして戸惑うAの横髪をそっと
耳にかけると、輪郭に沿って頬を撫でた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
