涙 ページ25
❀
透明な二粒の水滴が瞬きと一緒にはじき出され、頬をゆっくりと伝い、それから少女の手を濡らす。薄暗いロビーの中では彼女が涙を流していることなど分かるはずもないだろう……恐らく、灰崎にも。
「灰崎くんといると、やっぱり苦しい……」
「……」
「話せて嬉しいはずなのに、一緒にいるだけで胸がきゅって締め付けられてるみたいに痛くなるの」
苦しみに締めつけられたように少し狂乱の態とも見えるほどあたり関わず切ない声を振り絞る。この時点で、彼女が泣いていることを灰崎は察した。
「それは、俺が嫌いだからだろ」
「違うそうじゃない！私は灰崎くんが……」
否定的な灰崎の言葉にカッとなり思わず泣き顔を晒すように顔を上げたAだったが、そこまで言いかけると、途端に我にかえる。
そして自分でも何を言いたかったのかがわからず、放心したような顔で視線をゆっくり膝に落とした。
「(何、今の……私、今灰崎くんに何を言おうとしたの？あれじゃまるで＿＿＿)」
二文字の言葉が頭に浮かび上がると同時にそれ以上先のことを考えるのが怖くなり、頭を振り乱す。
「ごめ、ん」
「なんで意味もなく謝んだよ」
「私も分かんない……っ！けど、ごめん……」
両手に顔を埋うずめ、ついには何も言わずに泣いてしまう。こんなはずじゃなかったのに。
ただ普通に会話をして終わるはずだったのに、気がつけばAの瞳からは無数の涙が溢れていた。
「自分から言っといて泣くか？普通」
「泣いてなんかない！」
「泣いてんだろ思いっきり」
肩を震わせて嗚咽しているにも関わらず見栄を張るAに灰崎はほとほと呆れたように息を吐く。
「違う、目にゴミが入っただけだもん！」
「もんって……お前いくつだよ」
「あんたより一つ上よ、ばかぁ……っ！」
子供のように泣きじゃくりながら訴えるAはまるで歳上のようには見えない。普段ここまで泣く彼女の姿を見ない灰崎は少々困ったような顔をする。
「(でもねぇな……前にも一度だけ)」
一星を抱きしめながら泣きじゃくっていたAの姿が思い浮かび、そして目を細めた。
「おい擦るな、目ぇ赤くなるぞ」
「ほっといて！もう知らない、嫌い！」
「ガキかよ……泣いた次は逆ギレか？」
掌で目を乱暴に擦って涙を拭い続ける
Aを止めようとはしたが、彼女は
灰崎に背を向けるような形で体を翻す。
(そろそろ部屋戻るぞ)
(先に帰ってて……)
(そうも行かねぇだろ)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
