素直 ページ22
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相変わらず会話もなく、どうしたものかと小さなため息をついて残り最後となるジュースを飲み干す。
「一星……」
「！」
ぼそりと消え入りそうな声は静かなロビー故に彼女の耳にハッキリと届いた。
しかし突然浮き上がった光の名に、目を見開くと飲んでいたジュースが器官に詰まり咳き込み始める。
「何噎せてんだよ」
「ご、ごめ……っ変なとこ入っただけ、続けて」
灰崎に背を向けたまま片手を後ろに突き出したAは口元から零れたジュースを、持っていたタオルで急いで拭うと何事も無かったように体勢を戻した。
「前にも似たようなこと、ここに来た初日にお前に言ったけどよ……最近本当によく居るよな」
タオルを畳んでいたその手が止まる。その僅かな動揺を見逃さまいと、灰崎は鋭く目を細めた。
「先輩と後輩よ、当たり前じゃない」
だがそれもほんの一瞬で、再び手を動かしたAはタオルを綺麗に折り畳むと膝の上に乗せて答える。
「それだけの理由じゃねぇだろ」
「話ってそれだけ？悪いけどまた今度にして」
早口で捲し立てるように冷たく言い放ったAはそのまま立ち上がるとタオルと空き缶を抱えて灰崎の後ろへ回り、自販機のゴミ箱へと歩いていく。
「付き合ってんだよな、お前ら」
「！」
捨てた空き缶の音がゴミ箱の中で反響する。
質問ではなく、確信を得た上で放たれた灰崎の発言にAの体はスローモーションをかけられたようにゆっくり振り向く。
明らかにうろたえた様子
その顔には図星と書いてある。
「図星かよ」
「なんのこと」
「今更惚けんな。バレバレなんだよ、ばーか」
首を斜めに傾けた状態で、べっと赤い舌を出してバカにしてきた灰崎に、ムッ。と不服そうに唇を尖らせたAはその真後ろへ立つと彼を睨み下ろす。
「いつから気づいてたの」
「一々覚えてねーよ。けど、確信したのは最近だ」
「……」
「ま、それもなんとなくだけどな」
曖昧な言葉でそう言うと灰崎は顔を前に向けた。そして首を左右に倒し、腕を回し始める。
「座れよ、首疲れんだろ」
「なんで？私もう寝る」
「いいから黙ってこっちに座ってろ」
このまま立ち去るつもりでいたはずなのに、何故かAの意思とは反対にそれができなかった。そして気づいた頃には先ほどよりも近い距離に腰を下ろしていた。
(素直だな)
(体が勝手に動いたの。私は寝る気満々だけど)
(なんだそれ。つくならもっとマシな嘘にしろ)
(嘘じゃないし)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
