神と神 ページ12
❀
あまりの衝撃にヒロトは怒ることさえ忘れた。
魂を奪われたように呆然としたまま身動ぎをしない。狼狽からくる妙な瞬きを繰り返しては穴の開くような瞳で、目の前のアフロディを見つめている。
「別に悪い話じゃないだろ？ヒロトくんと違って僕は君のペース配分を把握した上で合わせるつもりだ。きっとすぐに完成するはずさ」
そう言いながらAの手を取ったアフロディは、白いその歯を見せて微笑むと手の甲を優しく撫でた。
「お前、ふざけるのも大概にしろ！」
Aの肩を掴んで後ろ背に庇うように立たせる。一方の彼女は何が起きているのか思考がまだ追いつかず、目を白黒とさせて二人を交互に見やっていた。
「ふざけてなんかいないさ、僕は本気だ。嫌ならこのゲームに勝てばいい」
「好き勝手言ってくれるじゃねぇか」
つくづく人の神経を逆撫でるのが上手なようだ。悔しそうに歯を食いしばり、背中の毛を逆立てて威嚇するヒロトの姿すらも彼の目には子猫の戯れに見えていることだろう。
「まさか神を名乗る君に限ってそんなことはないと思いたいけど…… 僕に負けるのが怖いのかな？」
全てを見透かしたような眼差しで
煽るアフロディに、ヒロトは
己の両眼を破れんばかりに大きく瞠る。
「上等だ、やってやるよ」
野生の猫から獲物を狩る鷹のように鋭い目付きへと変貌したヒロトに、アフロディは感慨深そうにわざとらしく手を叩くと乾いた拍手を送った。
「それじゃあ日暮さん」
「え…？」
「そういうことだから、応援よろしくね」
放心していたAの肩にぽん、と手を乗せたアフロディは涼しい顔をしてポジションへとつく。ヒロトもまた、鼻息を荒くした状態で大きく股を開き、足を踏み鳴らしながら定位置へと戻って行った。
ルールは至ってシンプル。お互いのどちらかが一点を先取した方が勝ちという四対四のミニバトル。両者ポジションにつき、試合開始を告げるホイッスルの音を今か今かと待ちわびている。
「このゴッドストライカーとあんたと。どっちが本当の神なのか、白黒ハッキリしようじゃねえか」
「僕達が勝ったらAさんとはまた別に、ヒロトくんには一つ言うことを聞いてもらうよ」
Aさん、という名前をわざと強調させて呼んだアフロディにヒロトの額に青筋が浮き立ち、ボールを固定していた足にも力が入る。
(馴れ馴れしく呼びやがって……)
(何か言ったかい？)
(……別に。好きにしろ、俺が負けるはずないからな)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年5月15日 0時
