修羅場 ページ6
❀
バツが悪そうな、それでいてどこか慌てた様子で光はベンチから立ち上がった。一方のフロイは、そんな光と前からやってくるAを交互に見やる。
「充くん、ごめんね遅くなっちゃっ……て」
アイスを持っていない手を膝について、息を整えたAが顔を上げると光の隣にふんぞり返るように座っていたフロイを見て固まった。
「充？」
確かに聞こえたその名前に
フロイの片眉が僅かに右上がりに反応する。
Aは確かに光のことを"充"と呼んだ。
ロシアにいて暫く光と離れていたフロイが
彼の素性を知らなかったのは無理もない。
＿＿だが、彼女はどうなのだろうか。
同じイナズマジャパンの一員であり、今までの光の態度や様子から察するに彼女は光にとって信頼を大きく寄せている人物であり、恋人のはず。
そんな彼女が光の事情を知らないわけがない。
「どうしてあなたが」
「それはこっちのセリフだよ、A。君が光の名前を間違えるなんて流石に聞き捨てならないな」
そう言って立ち上がったフロイはAに一歩、また一歩と距離を詰める。フロイが距離を詰める度にAは警戒するような姿勢で後ろに下がった。
「何言ってるのよ、この子はみつ…」
「先輩、もう行きましょう！」
それ以上はダメだとでも言うように、今まで黙っていた光がふいに、二人の間に割って入り込んだ。
「またね、フロイ」
そして戸惑うAの手を取ると、光は彼女を庇うようにしてフロイから遠ざけようと歩き出す。
「待って光」
だがそれも、フロイが光の手首を咄嗟に掴んだことにより叶わなくなる。
「その子、どうして君を充って呼んだの？」
「それは」
「事情を知らないわけないよね？」
神経質な嫌悪に尖った声で訊ねたフロイに光は言葉に詰まる。そして後ろにいるAを一瞥した。そんな一連の行動に益々顔を顰めたフロイは口を開く。
「昔の君は女の子に現を抜かすような子じゃなかった。この子がそうさせたの？」
フロイはそう言うと残念そうに
深い溜息を吐いて首を横に振った。
「フロイ、先輩を悪く言うなら」
「ああ、そういうわけじゃないよ。……でも」
睨めつけてくる光に愛想笑いを見せた
フロイはそこまで言いかけると掴んでいた
手を離し、視線をAに移動した。
「気に入らないんだ」
光の肩を押し退けて後ろ背にいた
Aに一気に詰め寄ると
彼女の顎を掬うようにして掴んだ
フロイは戸惑う彼女を冷めた目で見下ろした。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月16日 9時
