庭園 ページ4
❀
話があるとフロイに告げられて強制的に連れられた光は、人気のないクレムリン庭園に辿り着く。
そして、どちらからともなく
促し合うようにしてベンチに腰をおろした。
「気になったんで調べさせてもらったよ、君は充じゃなくて光だった。そしてオリオンに背いた」
トゲのある言い方と"オリオンに背いた"というその言葉に、光は膝の上に両腕を乗せたまま複雑そうな顔をすると頭を俯かせる。
「いいんだ、僕と君の仲になんら変わりはないよ。オリオンなんてどうでもいいことだ」
そんな光の心境を知ってか知らずか、ベンチの背もたれに腕を広げながら乗せているフロイが空を見上げながら続けると、光は眉を顰めて顔を上げた。
「フロイ、君はオリオン財団を司るギリカナンの一族なのに」
「うちも色々あってさ」
空港前での発言と言い、今の発言といい光は益々フロイの考えていることがわからなくなった。問い詰めたいという光の眼差しに気づいたフロイは「また今度話すよ」と困ったように苦笑して天を仰いだ。
その時、緊張した空気には似合わない
何とも間抜けな音が光のスマホから鳴った。
「ああ、いいよ。気を遣わないで」
自分に気を使って通知が来ても
スマホを取り出さなかった光に
フロイは手を上下に振りながら促した。
お言葉に甘えてスマホを出した光はディスプレイ画面に表示されたAという文字に、はっ。とした。
A充くん、今どこ?
軽はずみでフロイについて行ってしまったせいで、Aに肝心なことを伝えるのを忘れていた。案の定トーク画面には彼女からのメッセージが。
「そう言えば……」
ふと、何かを思い出したようにフロイが声を紡いだ。光はそんな彼を一瞥してからすぐに画面に目を戻すと文字を素早く打ち込んでいく。
「光とA、二人は恋人同士だったんだね。街の中で堂々と手を繋いだ時は驚いたよ」
虚をつくような言葉に文字を打つ光の指が止まる。
スマホからの連絡がAだと分かっていて狙って言ったのか、フロイは背もたれから腕を離すと人差し指を立てて光に向かって悪戯っぽく笑ってみせた。
「そこまで見てたのか、フロイ」
「まあね」
神出鬼没フロイに光は呆れたような
眼差しを向けると、Aへのメッセージを
片手間に送信してスマホしまいこんだ。
(ピロシキを食べあいっこしたり…
あとは人目につかないところでキ……)
(そこ一々言わなくていいから！！)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月16日 9時
