星を超えた想いを30【オリオンの刻印】 (ページ30)

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落し物ページ30

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「……最低」

長らくの沈黙の後、Aが静かに呟いた。
顔を上げた彼女の瞳には光が戻っており
フロイはその変化を見逃すまいと目を細める。

「あなたは充くんの旧友なんでしょ？なのにどうしてそんなことが言えるの？意味わかんない」

入場口から入り込んだ風が、一つに纏めているAの髪を波のように揺らす。まるで今の彼女の心を表しているかのような冷たい眼差し。

「気を悪くしたなら謝るよ。この話はまた今度ゆっくり聞かせてもらうとして……」

フロイはいつもどおりに肩を竦め

何の問題もなさそうに微笑みかけると話を続けた。

「そんな君に僕から最後に一つ。
そうだな…助言とでも言っておこうか」

「助言？」

Aは不思議そうに小首を傾げた。抵抗するのをやめて、話に耳を傾けて頭一つ分高いフロイを見上げていると、彼は含みのある笑みを浮かべる。

「君じゃ世界のレベルには到底追いつけない。練習をしたとしてもせいぜい日本のサッカーレベルだ。敵わないと分かっていて練習をして報われずに嘆くよりも、誰かにこうやって諭されたほうが諦めがつくと思ったんだよね」

「……！やっ……やめて！」

何の親切味も感じられない調子でツンと取り澄まし、他人の感情をまるで無視した口の利き方に、Aは悔し気な顔で歯を食いしばると、掴まれていない逆の手でフロイを突き飛ばして距離をとった。

「それのどこが助言なのよ！何考えてんの？ほんと意味わかんない……真剣に聞いた私がバカだった！」

みっともない捨て台詞を吐いたAは

踵を翻し、フロイに背を向けると

一度も振り返らずに入場口へと駆け出す。

「あちゃー。怒らせちゃったかな」

小さくなっていく彼女の後ろ姿を見据えたままフロイは額に片手を当てて苦笑する。そして深い息を吐いて足元に視線を落としたその時。

「これは……」

一枚の名刺のようなサイズのカードが裏向きになって落ちているのが視界に入った。彼女の落し物なのだろうか……不思議に思ったフロイは膝を折ると手を伸ばし、カードを拾い上げる。

「オリオン財団の名刺、か。
…こんなものまで貰っていたとはね」

表に返して初めて見えた紙に書かれた

明朝体の文字に目を通すと

その名刺を手のひらの中で

くシャリと音を立てて潰し、立ち上がる。

「ほんと、どこまでも気に食わないな」

そう言ったフロイはAが消えた

入場口のその先を、子うさぎを掴む

鷲のような眼差しで見据えていた。