星を超えた想いを30【オリオンの刻印】 (ページ22)

今日:2 hit、昨日:8 hit、合計:127,100 hit

秘密の分析ページ22

❀

液晶モニタのバックライトが薄暗いミーティングルームをわずかに照らす。会議用の長机の椅子には析谷共有と日暮Aが気難しそうにパソコン画面と向かい合いながら日本選手のスキルを高めるための分析を事細かく行っていた。

「あの、析谷さん」
「ん？」
「ここ…打ち間違えてます」

そう言ってAはメモを胸元に抱えて、空いた手で問題点のある場所を画面に向かって人差し指をさしながら伝えた。そしてタイピングを中断した析谷は彼女の指先に目を当てる。

「正確にはオフサイドが1回増えた時の得点は0.05ではなく、0.06です。こっちはスルーパス成功が1回増えると0.06よりさらに高い0.08になります」

「あ、ほんとだ……失敗失敗！」

分かりやすいようにその都度指先を画面上に移動させて説明をしたAに指摘をされてそこで初めて気がついたのか、析谷は片手で頭を擦って苦々しい顔一面に浮かばせて笑う。

「ありがとうA。危うく間違った分析をしてしまうところだったよ。さすが元監視役だね、見るべきところがちゃんと見えてる」

さっそく訂正をくわえようと、マウスを使って短い操作を繰り返しては、ぱちぱちと手際良く優雅とも言える手つきでキーを叩く析谷。

「これでよし、と」

最後にエンターキーを弾くようにして音を立てると、椅子の背もたれに背中を預けてから天井に向かって大きく腕を伸ばし、息を吐いた。

伸ばした手をそのまま頭の後ろに手を回して寛ぐ析谷の隣で、Aは画面とメモを交互に見比べながら熱心にペンを走らせている。

「(強化委員を投入したことで去年に比べて日本や他校の得点率が大幅に上がってる。轟会長が言っていた全体の力を底上げするって、このことだったのね)」

今回データとして活用したのは、去年と今年のFF、そしてFFIの全250試合において取得したもの。驚くべきは、析谷が集めたデータの粒度の細かさだ。

パスやシュートなど、ボールに触れた時点のデータはすべて取得していた。各試合を見ながら、専用のシステムを利用して記録していて、1試合で2000近くのデータが集まるというのだから驚きである。

「(この人から学べることはたくさんある。悔しいけど、才能のある人にはかなわない。それなら割り切って私は自分を高めるために教わらなきゃ)」

走らせていたペンを止めて

隣で自らの肩を叩いたり腕を回して

体を解している析谷を一瞥したAは

メモをジャージのポケットに戻すと口を開いた。