星を超えた想いを30【オリオンの刻印】 (ページ21)

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カルチャーショックページ21

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「してるんだよ」

「え…？」

一オクターブ低い析谷の声が響くと

はっ。と顔を上げて、Aは固唾を飲みこんだ。

「彼は足を痛めていたんだ。

"世界大会が始まってからずっと"ね」

衝撃的な言葉にショックを受けたAの瞼が幾分か出っぱって、大きく見開かれた瑠璃色の瞳が、いまにもころりと飛び出しそうな光り方をして深刻そうな顔で床に視線を落とす析谷の姿を映した＿＿＿。

「だ、だけど…そんな素振り、本人は一度も」

Aは、声が驚く程に震えているのが分かった。あまりに突然すぎた析谷から告げられた吹雪の怪我の告白に戸惑いを隠せなかったのだ。

「本人は騙し騙しでやっていたみたいだったからね。さっきも足を少し見せてもらったけど酷かったよ。次の試合も持つかどうか……」

「そんな…！」

析谷は哀しげな目をしていた。

Aがじっと見返すと

静かに溶けてしまいそうな視線だった。

はかなげでありながら、胸の奥にしみ込んできて無視ができない影を残し、それ以上は問い質せない。

「一つだけ聞かせてください。……析谷さんはどうして吹雪くんの足のことを？あの様子だと本人の口から言われたわけじゃないですよね」

就任したばかりの析谷にいくらなんでも怪我をした足とその事情の説明などできるはずがない。Aは吹雪の怪我を知ると同時にそこにも疑問を感じていた。

すると析谷は数秒目を瞬かせていたが、ノートパソコンを持ち直してふっ。と目元を細めて笑う。

「そんなの、見ていればわかるさ」

「見て、れば？」

さも当然のように言ってのけた析谷にAは一瞬、謎の虚脱感に見舞われる。長い間接してきた吹雪が今までずっと隠し続けていた怪我。

近くにいた彼女ですら気づけないほどの演技だと言うのに、析谷はそれをたった一日で見破った。

「私には、分かりませんでした。吹雪くんと話したり特訓をしていたのに…気づけていませんでした」

握り拳をふるわせて、爪が肉に食い込もうともAはそれに構わず言葉を放つ。尊敬と憧れの念を抱くと同時に、その観察力を妬ましく思った。

「Aはまだまだ子供だからね。君も中学生にしては中々の観察力だよ。これからもっと経験を重ねていけば、視野も自ずと広がっていくはずさ」

析谷は頭を俯かせたまま震えるAの頭に

手を乗せて、安心させるように言い聞かせた。

悔しいはずなのに、その手は温かくて

その気持ちよさに思わずAはそっと瞼を閉じた。