個人メニュー ページ18
❀
趙金雲監督の準備運動とはかけ離れた析谷のハードなウォーミングアップは選手たちにもいい刺激になったことだろう。
走り込み二十キロを終えた彼らは息を切らし、膝から崩れるように芝生の上に座り込んで休憩をとる。
「ここからはデータ分析による個人別のメニューだ。明日人、悠馬、鉄之助」
だが、そんな暇もなく析谷は準備していたカリキュラム用紙を鞄の中から引っ張り出すと、選手の名前を一人一人呼んで紙を一枚ずつ手渡していく。
「なるほど。これは理にかなった分析ですね」
「僕はフィジカルトレーナー兼、データ分析担当だからね」
戦術の皇帝との異名を持つ野坂をも納得させる特訓内容。析谷は人当たりのいい笑みを頬に浮かばせながら指を二本折り曲げて担当分野を増やす。
「明王」
「……」
「……」
「ああ、俺か」
沈黙の後、不動が声を上げた。
どうやら下の名前で呼ばれ慣れていないせいもあり、ピンとこなかっただけのようだ。重たい腰を上げて立ち上がると不動は用紙を取りに向かう。
「雄一郎、貴志」
「名前で呼ばれるの新鮮でゴス」
「僕そういう感じなんだよね〜」
ぽっ。と頬を赤らめて恥ずかしそうに
岩戸が話せば、析屈託のない目を細めて
紙を持つ手を振りながら析谷が笑った。
と、その時。
「あっぶねぇ！！」
ヒロトにしては珍しい焦った声が析谷を含む選手たちの耳に入り、彼らは用紙を片手に何事だと目を丸めて後ろを振り向く。そこには声の主であるヒロトと、体を支えられているAの姿。
「お前、ウォーミングアップでそんなにへばってて個人メニューなんかできんのか」
「大丈夫、できないじゃなくてやらなきゃ」
「でもそんな体じゃ持た＿＿」
「やるの！」
眉を八の字に歪めて不服そうに言ったAはヒロトを押し返して一人で歩いていく。こうなった彼女は頑固だ。それを知っているヒロトは、どうなってもしらねぇからな、と釘をさしてその後ろを歩く。
「析谷さん、私のプリントください」
足を踏み鳴らして析谷の前に立ち止まった
Aが片手を前に差し伸べて頭数個分
抜けている析谷を見上げながら言った。
「その意気だよA。これが特訓メニューだ……と言いたいところだけど」
「え」
指先が用紙に触れる寸前に手を上げた析谷。
受け取るつもりでいた彼女の手は
悲しくもそのまま宙を掴んでしまう。
一瞬、理解に思考が遅れたAは
きょとんとした顔で析谷を見上げて固まった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 199人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月16日 9時
