古風 ページ2
❀
「まずはあっちから周りましょうか」
「うんっ」
噴水の傍に立てられている地図を確認してから右を向いた光が風船を持っていない手で指をさして言うと、Aは頷き、風船が絡まらないように逆サイドで持ち直すと光に寄り添うように隣を歩いた。
「当たり前だけどカザニの街並みって日本とは全然違うわね。古風が残ってて、なんだか街全体が今と昔のカザニの歴史を繋いでる感じする」
国境を越えた様々な人々が行き交うストリートの中を歩きながらAは街を見回していた。
現代の最先端の技術を駆使した交通機関やお店がずらりと並んでいる反面、古くから使われている噴水や路面電車、キリスト、イスラム教などの様々な建物も建てられていた。
「ロシアの人たちは何よりも文化や伝統を大切にしている国だと言われています。今俺達が歩いているこの街も、昔の住人達が望んで後世に残していったものなのかもしれませんね」
光もまた、講演を終えて演壇に立ったまま聴衆からの質問を待ち受ける人のような姿勢でAの隣を歩きながら感慨深そうに言った。
「こういうのをエキゾチックって言うのかな」
「そうですね」
お互いにどちらからともなく足を止めて顔を見合わせたAと光は意味もなくクスリと微笑み合うと、観光を続けようとまた歩き出す。
「そういえば先輩、ここに来る前に他の誰かと一緒にいたんですか？」
「え…」
ふと、光の何気なく放った問いかけにAは小さな声を上げると歩みを止めてその場に佇んでしまう。
急に立ち止まった彼女を不思議に思って、振り返った光はAの頭上に浮かぶ二つの風船を見ながら再び口を開く。
「風船が二つあるのでそうなのかなと思って」
「あ…うん。ちょっと他の子と話し込んでたの。そしたら近くにいたクマゾウから風船、貰って」
とっさに嘘をつき、取り繕って話した自分の腑甲斐なさにAは独り恥じ入ったが、光にはそれが嘘だと言うことが直ぐに見抜けた。
「確か灰崎くんが好きですよね」
「う、うん」
あえて深く突っ込まずに話の路線を
違和感なくすり替えると光の口から出た
灰崎という名前にAの肩が跳ねる。
本当にわかりやすい先輩だ、と
光は狼狽した姿を隠しきれていない
Aに眉を落として困ったように笑った。
(日本のキャラクターなのにロシアでも大人気ですね)
(そうなの。そしたら灰崎くんがね……あっ)
(……先輩って嘘つくの下手ですよね)
(い、言わないで)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月16日 9時
