謎多き少年 ページ8
❀
「来たぞ、世界！」
足を開き、両腕を天高く伸ばした明日人が空港前で感動のあまり大きな声を張り上げた。
スペイン、日本、アメリカ代表選手たちがロータリーで到着予定のバスをそれぞれ待っていると、突然。どこからともなく行進曲が流れ始めた。
「なに？」
そしてその曲のリズムに合わせてAたちの前に続々と現れたのはロシアの伝統的な衣装を象徴するルパシカを身に纏った少年たち。
コサックダンスを披露し、その中のリーダー格であろう少年が仲間たちの上から開脚をしながら飛び上がると、優雅に着地をし、その姿を現した。
「プリヴィエット！ようこそロシアへ」
白髪の髪に一本だけ青いメッシュの入った前髪。ロシア人独特の硝子玉のような青い瞳を持つ少年の登場に各々は呆然とした顔で彼らを見据える。
「僕はフロイ・ギリカナン。ロシアチームキャプテンです」
胸元の前に片腕を出して敬意を表して挨拶をするのはロシアチームのキャプテンと名乗る少年。
「ギリカナン」この大会の主催者であり、主犯格を思わせる人物の名字に、その場にいた者達の表情が徐々に凝り固まり、険しくなる。
「ねえ、ギリカナンってあの？」
Aはまさかと思い、内緒話をするような体勢で光の耳に手を当て、声を潜めて訊ねる。
「はい。アイツには十分に注意してください。先輩のことも知ってますから」
「私のことも？」
光の耳から顔を離すとAは人差し指を自身に向けてからきょとんとした表情で目を数回瞬かせる。
「これから剣を交える皆さんに、ご挨拶にまいりました」
アメリカ、日本、スペインの順に
顔を見回したフロイは
「どうぞお見知りおきを」
と、礼儀正しくお辞儀をした。
「皆さんとは一次グループリーグで当たることになる。本当に楽しみです」
「私にはそんなに悪そうな子には見えないけど」
ふと少年と目が合い、優しく目を細めて柔らかい表情で笑みが零される。幼さが助長され、滲み出る優男そうな外見にAはぽつりと呟いた。
「先輩、外見で騙されないでください。歓迎をすることで俺たちから注意を払って油断させようとしているだけです。いつ本性を表すか分かりません」
気を許そうとしているAに光が強く釘を刺す。
底知れない男であることを彼女は知らない。会って間もないのだから仕方が無いことだがもう少し警戒心を持ってほしいと思う光であった。
(充くん怒ってる？)
(別に怒ってません)
(…怒ってるじゃん)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月5日 16時
