カザニ・クレムリン ページ45
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「お前らマジで、凍え死ぬぞ」
防寒具に身を包みながら剛陣が
そう断言してから数十分が経過した。
不安がる者、呆れる者や半信半疑な者たちを乗せたイナズマジャパンのバスはようやくカザニ観光名所の一つカザニ・クレムリンへと到着した。
「ここがカザニ一番の名所、カザニ・クレムリンです」
ガイドの旗を分かりやすく右手に持ちながら、バスから足を踏み下ろした選手たちを案内するスコーリオに「クレムリン！」と声を高らかに上げて剛陣と明日人は両腕を天に伸ばして万歳をする。
「全然寒くないですよ、剛陣さん」
「ほんとだ！むしろ暖かいですね」
そんな二人の前を颯爽と歩いていきタツヤがさらりと毒を吐くと、それに続いて坂野上が円堂と共に剛陣の前を素通りしていく。
「なあA、クレムリンってどういう意味だよ」
「ロシア語で城塞って意味らしいわ」
ふと剛陣と明日人の前で立ち止まったヒロトが凝った肩を解すように腕を回しながらAに訊ねると、彼女はガイドブックに記されている文字を指して翻訳する。
「つか、全然寒くねえな」
「ほんとにね。だけど一人だけ北極圏にでも行くような格好してる人がいるけど」
わざとらしく両腕を擦り、背後でげんなりとした顔で明日人と共に立ち尽くしている剛陣の姿を後ろ目に一瞥したヒロトとAは鼻で笑いとばす。
「ただの馬鹿だろ」
「そうね」
何事もなかったかのように視線をガイドブックに戻したヒロトとAに剛陣の額に青筋が浮き立つが、何も言い返せないのがもどかしい。
「それよりあっちに美味そうなもん売ってあんだけど買って行かね？」
「別にいいけど、通貨なんてないわよ」
本から視線を上げたヒロトが指をさす方角にはずらりと列を作った人だかりができていた。眉を顰めるAに、ヒロトが鞄から財布を取り出す。
「親父に借りた」
「さ、さすが御曹司…」
「したかねえから奢ってやるよ」
黒の長財布を持った手を振ってチラつかせるヒロトは御曹司の風格があり、Aは改めて目の前にいる彼がお金持ちであることを自覚した。
「でも…」
「いいから黙って奢られてろ、分かったな？」
「……ありがとう」
着込みすぎて暑さに耐えられずオーバーヒートしている剛陣を気にも止めずAとヒロトが歩き出した数秒後、防寒具を脱ぎ捨てた彼の断末魔が轟いた。
(ねえ、何か聞こえなかった？)
(気のせいだろ。それよりお前どれにすんだよ)
(あ、これがいい)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月5日 16時
