語弊 ページ41
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ロシアの豊かな自然と環境を走ること三十分。
バスの中は変わらず選手たちの賑わいで溢れていた。空港で買ったお菓子を食べる者、景色を写真に収める者、和気あいあいと話す者、睡眠につく者などまちまちだ。
「プリヴィエート！皆さん」
そんな賑わうバスの中で、今までガイドブックを読み漁っていた観光ガイドを自称しているスコーリオがマイクを片手に立ち上がり、挨拶をした。
「プリヴィエート、"こんにちは"という意味よ」
「スパシーバ、夏未さん！」
ロシアに到着してから何かと耳にするプリヴィエートという言葉。
夏未が簡単に翻訳をするとスコーリオからの熱烈なウインクが返ってきたので彼女自身は苦笑気味だ。
「ここからも私めスコーリオが皆さんをガイドしますよ！」
観光案内のバスガイドのような唱う調子ではないが、韻律的な抑揚はあった。それに彼はイタリア人のはずなのに、何故か関西訛の柔かい調子がある。
「ロシアならスコーリオにおまかせ！よろしくお願いします、火だるまジャパンの皆さん！」
「火だるま？」
片手を上げて調子よく言ったスコーリオの言葉に、前席に座っていたAは首を傾げて光に目で問いかけるが、光も首を横に振って眉を寄せていた。
「火だるまじゃ大ピンチです」
「イナズマジャパンです」
スコーリオの語弊にすかさずつくしと明日人が笑顔を取り繕いながら訂正させる。
「oh......ごめんシーバ申し訳ヴィエート！日本語難しいね〜」
指摘されたスコーリオはわざとらしく悲壮な表情を見せて両手を頬にあてながら謝るが、日本語とロシア語がごちゃ混ぜになった言葉ではどうも謝罪の念が感じられない。
「それはそうと皆さんこれからカザニ観光しますよ！」
切り替えの早さとテンションの高さはピカイチだ。意味もなくマイクを手の内で回して、お茶目にウインクをして見せたスコーリオに待ってましたと声が上がる。
「ろくにロシア語も日本語も喋れない人が観光案内なんて大役が務まるのかしら」
どうもインチキ臭いガイドを眇めた眼差しで見つめたまま、隣の光にそっと耳打ちをするA。
「さ、さあ…どうでしょう」
光にしては珍しい引きつった声。
心做しか片眉もぴくぴくと動いており
胡散臭さに耐えかねているようにと見て取れる。
「どんなとこに行くんですか？」
「えっ……それはですね」
開始早々、控えめに挙手をしてさっそく質問を浴びせた万作にスコーリオの表情が凝り固まった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月5日 16時
