闇社会 ページ22
❀
ウォーミングアップを済ませた選手たちが
次々とフィールドに足を踏み入れ
キャプテンの円堂を筆頭に横並びに並んでいく。
「修くん！」
「A？」
スパイクの靴紐も結び終わり、立ち上がった
豪炎寺がタッチラインに足を踏み込んだその時。
後ろから幼馴染みの少女Aに
呼びかけられ、豪炎寺は体を翻し振り向いた。
「試合、頑張って」
「それを言うためにわざわざ来たのか？」
「たまにはね」
真正面に立った豪炎寺を見上げながら
そう言ったAは、彼の反応を
計測するように目を細めて小さく微笑んだ。
他の者達から見れば口元が僅かに上がっただけの彼女の表情変化などよめないほどの笑みだ。だが幼馴染みの豪炎寺がそれに気づかないはずがない。
「夕香も修くんの応援に来てるわよ」
「ああ、さっき会った。今日の試合のことは話していなかったんだがな」
お気に入りの黄色いメガホンを首からぶら下げて家政婦のフクさんを傍に応援に来ていた夕香。
今もAから離れた後ろから
「お兄ちゃん！」
と、愛らしい声で声援を送っている妹の姿に
豪炎寺の目は優しく弓なりに曲げられた。
「ビックリしたでしょ。今日の試合のこと私が教えたの。裏ルート使ってチケットも渡しといた」
「……お前がいつか闇社会に手を染めないか俺はそれが心配だ」
豪炎寺は真顔で言うAの姿を呆れたような眼で見つめ、苦々しい顔をすると疑わしげに言った。
「大丈夫、やるならバレないようにやるから」
「そういう問題じゃない」
「…冗談よ。監督に貰った」
「お前の言う冗談はどうも冗談に聞こえないんだ」
相変わらず感情表現に乏しい幼馴染みに
溜息をつき、妹の夕香にしてやるように
黒く染められた艶のある髪に手を伸ばす。
強ばった豪炎寺の手がAの頭に
すっぽりおさまるような形で置かれた。
「行ってくる」
「うん」
背を向けてフィールドに足を踏み入れた
豪炎寺の後ろ姿を見送り、屈強な
フィジカル選手が揃うスペインチームを
品定めするような目で見つめていると
シャッターを切る音が後ろから聞こえた。
「春奈ちゃん何勝手に撮ってるの」
「記念よ記念！Aちゃん普段は写真に写りたがらないから、豪炎寺先輩と！」
お気に入りの黒カメラを首からぶら下げていた春奈。どうやら先程からスタンバイしていたらしい。
(ほら、二人ともよく撮れてる！)
(ほんとだ…)
(後で焼き増ししてあげるわね)
(うん)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月5日 16時
