不意打ち ページ14
❀
「フロイ、いったい何を」
「まだ挨拶が済んでいないからね」
よりにもよってミサンガが付けられた
利き手で握手を交わしているA。
気が気ではない光は彼の行動に細心の注意を払う。
「は？挨拶ってなんの」
閉じられていた瞼が開かれ、ブルーアイがAの瞳を射抜く。
嫌な予感が頭を過ったAは無理矢理手を振りほどこうとするが、気づいた時には遅かった。
「ちょ…っ！？」
フロイと交わしていた手に突然
力が込められ、そのまま腕ごと
引き寄せられるように引っ張られたA。
バランスを崩し、前に倒れかけた
彼女を目の前にいたフロイが抱き止めたと
ほぼ同時に頬に柔らかい感触と温もりが走った。
「なっ…！」
「フロイ！！」
はっと息を呑むようなヒロトの掠れた声と共に、切羽詰まった光の声が被さり空港前に響き渡る。
「えっ…」
何が起きたのか分からず、フロイに両腕を掴まれたままのAは確かに感じた感触がまだ残る頬に指先を当てながら、フロイを見上げて固まった。
「大丈夫？少し引っ張りすぎちゃったかな」
ふっ。と優しく目を細めて何事も無かったかのように訊ねるフロイとその後ろで顔を両手で覆い、指の隙間から赤い顔を覗かせるつくし。
その隣に立っているヒロトは石のように固まり、タツヤが人差し指でつつくと音を立てて崩れていく。
何より傷ついたのは灰崎が侮蔑をきわめた表情を二つの目に集めて、Aの顔を斜めに見返しては逸らしたことだ。その皆の反応でAは全てを察した。
そして＿＿＿
「い、いきなり何すんのよ！！離して！」
はっ。と我に返ったAは頬を薄く赤らめるとフロイを押しのけて咄嗟に手を振りあげた、が。振り下ろされる瞬間にその手首を掴み上げられてしまう。
「いけません。女性が手を上げるなんて」
「(こいつ、力強い…！)」
利き手を後ろに隠し、左手でAの手首を掴んだフロイ。振り払おうと腕を押しても引いてもビクともしない。自分と変わらない細いその腕に一体どれほどの力があるのだろうか。
「フロイ、その手を離せ」
「そんな怖い顔しないでよ光」
「いいから離すんだ」
目じりを険しく吊り上げ、フロイを睨めつける光。
声のトーンが下がり久しぶりに聞いた光の声はドスの効いたものだった。眉間にはときどき嵐の前の稲妻のように閃くひとつの表情がある。
(随分仲良くなったんだね、この子と)
(……)
(前は女の子にまるで興味なかったのに)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年4月5日 16時
