一星兄弟 ページ10
❀
「もういい。もういいよ、兄ちゃん」
「えっ？」
「ごめんね……
俺のせいで、兄ちゃんを苦しめちゃって」
突然告げられた光のその言葉の意味を
理解するまでに時間を要した充は
困ったように眉を下げて苦笑する弟を見据える。
「でも、もういいから
俺のために頑張る必要なんてないから」
「ち、違う！光のせいじゃない！」
眉間に皺できるまで太眉を寄せて、即否定した充に、光は少し驚いたように目を丸めた。
「光がいたから！光のおかげで
俺は今までやってこれたんだ！
お前ともう一度サッカーがしたくて！」
そこまで言いかけると、充は
言葉を詰まらせて苦しそうに喉を鳴らした。
頭をボールに押し付けて、肩を震わせる。
「お前が"生きてる"って、信じたくて……」
「サッカーなら、いつでも一緒にできるでしょ？」
啜り泣く兄に、光もつられて泣きそうになったが、涙をぐっと堪えて微笑んだ。
「忘れたの？俺達は二人で一人。二人でひとつのチームだって」
「忘れるもんか！」
涙で腫れて、赤くなった瞼を腕で乱暴に擦り、涙を拭った充。
「でも………今は少し変わっちゃったね」
「えっ？」
「兄ちゃんには、大切な人ができたから」
後ろ手を組んで、ほんの少しだけ
寂しそうな目を影に残しながら、光が云った。
「Aさん、素敵な人だね」
「あ、あいつは……そ、んな、んじゃ」
「隠さなくても、見てたから分かるよ」
Aの名前を出した途端、目を泳がせて
言葉数を少なくした兄の姿に
光はただ優しく目を細めて苦笑していた。
「Aさんといる時の兄ちゃん、いつも嬉しそうだもん」
「や、めろよ……そういうの、恥ずいだろ」
光から、横目をするりと移動させて、赤くなった頬を隠すようにサッカーボールを目元まで上げる充。
「ねぇ、兄ちゃん
二人で一人のチームに、いつか必ず
Aさんを加えた三人でサッカーしようね」
屈託のない無邪気な顔で口元を綻ばせた光に、充はサッカーボールから顔を離して静かに頷く。
「俺は、いつでもここにいる。兄ちゃんと
一緒にいる。俺達は、"永遠"にチームだろ？」
腕を伸ばした光の手は、充の胸に当たり
彼の心に直接言い聞かせるように思い出せた。
「一緒に……ずっと一緒に！」
「うん！」
初めて夢を語り合ったあの頃のように
充と光はひとつのボールに、手を添え合わせる。
『俺達のサッカーを!!』
そして、止まっていた時の歯車が 再び動き出した。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月26日 19時
