星を超えた想いを21【オリオンの刻印】 (ページ36)

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後ろ髪ページ36

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「(だ、めだ………ダメだ！
先輩が好きなのは俺じゃない！兄ちゃんなんだ！)」

心のどこかで、甘えてしまいそうな自分がいた。

そんな自分の気持ちを押し沈めるように律して

その考えを払うように、光は頭を振り乱した。

ショルダーの紐を持つ手にぎゅっと

力を込めて足一歩前に踏み出した＿＿＿が。

「どこ行くんだ、一星」

「まさか、落とし前もつけずに
消えるつもりじゃないだろうな？」

既に聞き慣れてしまった"仲間"の声に光は後ろ髪を引かれて、後ろを振り返った。階段を上がった数段先から自分を見下ろしていたのは灰崎と明日人だ。

「俺は、長い夢を見ていたみたいだ。
でも、自分がやってきたことを
忘れたわけじゃない。君たちの前から消えるよ」

兄の充とは形状の異なる、澄み渡るような

清く美しい蒼眼の瞳の中に白く輝く

金剛石を光らせながら

光は眉を落として自分の過ちを認めた。

一星は、そう言い残すと明日人達に再び
背を向けようとしたが「待てよ」灰崎の
突き刺すような鋭く尖った声が響いた。

「Aのことはどうするつもりだ？」

「なんの事かな？」

「惚けんな。お前が一番分かってることだろうが」

その話には触れてほしくなかったのか
光の顔色がみるみるうちに悲痛な面持ちへと
変わり、色素の薄い青い髪が夕風に揺れた。

「野坂から大体の話は聞いた
お前、ボロボロになったアイツを捨てる気か？」

あくまで冷静に、落ち着いた口調で尋ねている灰崎だが、光には彼の感情の僅かな乱れが少し尖った声にあることを何となく読み取れた。

「それは違うよ、灰崎くん」

あはは、と可笑しくも何ともないのに、光はお腹の底から絞り出すように乾き切った笑い声を上げた。

「先輩が好きなのは俺であって、俺じゃない。先輩は、兄ちゃんが………"一星充"が好きなんだ」

それは、変えようのない事実。

自分自身との葛藤に全神経が顔に集中して

不気味な程に引き攣ってしまう。

「俺は………一星"充"じゃないから
どう頑張っても、兄ちゃんにはなれない」

一度芽生えてしまった感情は消すことも

塗りかえることも、忘れることすら許してくれない

「だからもう…………俺にはあの人と
一緒にいる資格なんてないんだ。
先輩といたら、傷つけてしまうだけだから」

それだけはしたくないんだ、と。

俯かせていた顔を上げた光は

かつて見たことの無い怯懦の目つきで

哀愁と感傷を漂わせながら眉を落とし、微笑んだ。