星を超えた想いを21【オリオンの刻印】 (ページ34)

今日:20 hit、昨日:15 hit、合計:228,211 hit

人形ページ34

❀

涙の痕をなぞるように、光が上下に

手を滑らせていると、Aが

小さく身動ぎをして頭を光の方へと傾けた。

そんな些細な動きでさえ焦ってしまい

思わず頬から離そうとした光の手を

眠っていたはずのAが掴んで、制した。

「す、すみません起こしてしまって」

「…みつ、る？」

まだ夢現なのだろう。薄く開かれた瞼をしばしばさせて、寝惚けている彼女は、焦点を失ったような空虚な眼差しで、起きたことに焦り、目を見開いて焦る光の姿を、充だと認識してしまう。

「きて、くれ、た………んだ」

「えっ……」

「うれし、い」

普段の彼女からは考えられないような

甘えるような猫なで声を出し、だらしなく

頬を緩ませて、にへら、と力なく笑った。

そして、狼狽の色を顔に隠しきれない光にお構い無しに、Aは猫のように光の手に頬を擦り寄せた。

「せ、せせ先輩！
あ、あの！俺は、兄ちゃんじゃなくて！」

「………さみし、かった、」

光の声が、届いていないようだった。

潤んだ瞳で上目に光を見上げたまま

頬を擦り寄せるAに

尋常ではないほどの汗をかいてしまう。

「おね、がい………そば、にいて？」

「うっ」

兄の心の中からでしか見た事のなかったAの姿を前に、体の熱が一気に顔へと集中して、心臓がうるさい音を立てて高鳴っていく。

「(だ、ダメだ………！先輩は、先輩は

兄ちゃんの大切な人なんだ！)」

このままいたら、きっとまた"充"を

演じてまでAに手を出してしまう。

それはしたくない。光は、くっ。と歯を食いしばるとAから目を逸らし、手を乱暴に振り払った。

しかし、それが災いしたのか

幸せそうだった彼女の表情は徐々に

崩れていき、泣きそうな顔へと変わってしまう。

「や、やだ…や、だ！」

「な、泣かないで！泣かないでください、先輩！」

「いか、ない…で……っ」

手を放しただけなのに、壊れた人形のように

何度も充の名前を呼びながら、腫れぼったい

瞼から涙を流し始め、泣き出してしまった

Aに、光は取り乱してしまう。

充との別れを受け止めきれず、それが不安定な夢現状態となって彼女の心を支配したのかもしれない。

「お、俺はここにいますから……！
だから、だから泣かないで、先輩！」

その泣き顔が胸を締め付けてしまうほど

辛くて、耐えられなくなった光は

Aの手をもう一度掴んで安心させようと宥める。