食卓の香り ページ30
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日本対サウジアラビア戦も無事に
幕を下ろし、バスに乗り、宿舎へと帰宅した
選手たちの鼻に、仄かなカレーの匂いが擽った。
試合も終わり、お腹を空かせていた選手たちは、その匂いに誘われるように食堂へと赴き、勝利の余韻に浸りながら、各自、夕飯を食べていた。
「あの……Aは？」
先に戻ると行ったきり、戻ってこない
Aを心配して、明日人が首を曲げて
当たりを見渡し、ご飯を盛ったお皿を
つくしに渡しながら尋ねた。
「帰ってからすぐ、部屋で泣き疲れて寝ちゃたの」
「だから今は、そっとしておいてあげて？」
「はい……」
カレーのルーを掻き混ぜるつくしの
隣から野菜が盛り付けられたボウルを
片手にやってきた秋が、人差し指を
唇に当てて、眉を落としながら言うと
明日人はつくしからお皿を受け取り、頷いた。
「やっぱり………
相当ショックだったんだよな、一星のこと」
はぁ、と息を吐いて、独り言を呟く明日人。
「そんな軽いもんじゃねーだろ」
「灰崎？」
「……」
そんな明日人の言葉を拾い、カレーとは
また別のトレーを持った灰崎が隣に並び立つ。
「どういう意味だ？」
「……………さあな」
髪で隠れた灰崎の横顔を見つめる明日人。
灰崎はそんな明日人を、ちらりと一瞥すると
並べられていたプリンに手を伸ばし
トレーの上に積み重ねるように二個乗せた。
「灰崎、それ。二つも食べるのか？」
「んなわけねぇだろ、差し入れだ」
「差し入れ？………あ。もしかしてAに？」
そんくらい分かれよ、とでも言うように
隣からじーっと見つめてくる明日人の
視線を感じながら灰崎は鼻を鳴らした。
「どうせ起きたら腹空かせるだろ、アイツ」
「だからってなんでプリンなんだよ」
「うるせぇ」
目を細め、苦笑しながらツッコんだ明日人に
灰崎は罰の悪そうな顔をしてスプーンを
トレーに乗せると、カウンターから離れていく。
「灰崎も何だかんだ言って優しいよなー」
どの席に座るか、空いている席を見渡す
灰崎の背中を遠目に見つめながら
明日人が呟いていると急に「おい」と
バリトンボイスが彼の耳を擽った。
首だけを傾けて振り返れば
そこには手ぶらのヒロトが立っていた。
「ヒロト？どうかしたのか？」
「ヨーグルト、まだ残ってるか？」
「ああ、うん…………ある、けど」
ちら、と後ろ目にヨーグルトを一瞥した
明日人は、彼に気遣って、まだ数個
残っているヨーグルトに手を伸ばした。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月26日 19時
