俺だけの ページ24
❀
「Aに会えて、よかった」
「充くん…」
そう言いながら、一星は瞼を閉じて
頭を少しだけ前に倒すと、こつん。と
Aの額に、自分の額を優しく突きつけ合わせる。
「お前といたのは、たった数ヶ月ぽっち
だったけど………………俺にとって
この数ヶ月間は、大切な"宝物"なんだ」
「私も、充くんと会えた事。
出会えた事は、私の中で一生の宝物だよ。
忘れられない素敵な思い出の一つだから」
顔を上げて、儚げに笑う一星の姿が逆に痛々しかった。無理をして笑っているのは、一目瞭然だ。
切なさがAの心にまで染み込み
徐々に迫りくる『別れの時間』に
二人は平然を取り繕い、胸の内で心を痛める。
「あんたは、俺だけの先輩でした」
「……………」
"でした" 、過去形となってしまうその言葉にAは苦しげに眉を歪ませる。そんな彼女の歪められた眉に人差し指を当てがい、形をなぞる一星。
「正直、初めてあった頃は先輩を利用することしか考えてなかった………だから、必要以上に接してくるお前が最初は鬱陶しくて、目障りで」
Aは、一星の口から紡がれた本心を聞いても、不思議と嫌な気分にはならなかった。それはきっと、一星と心が通じ合っている証拠があるからだろう。
Aは一星の胸元に視線を落としながら
話を聞いていた。「でも………」
続きのあるその言葉に、ちらりと上目で一瞥する。
「お前と接していくうちに
それもいつの間にか、俺の中で変わっていた」
眉をなぞるのをやめて、懐かしむように目を細める一星。
「気がついたら、お前といるのが
落ち着くようになってて、Aといるのが
俺の中での……"当たり前"になってた」
「……嬉しいな。
充くんの中での私が、充くんにとって
そんな大きな存在になれてたなんて」
嬉しい…ともう一度呟き、幸せそうに綻んだAに、少しでも触れていたくて、一星は先程まで眉をなぞっていた指を、今度はAの頬に伸ばすと、垂れていた横髪を掬い、耳にかけ直した。
「正直言うと、遊園地に誘われた時も
最初は鬱陶しくて、帰りたくて
仕方なかったけど…どこかで
………楽しんでる自分もいたんだ」
今だからこそ言える、口に出せた一星の本音。
今だからこそ、言わなければならない。
気持ちを、ちゃんと伝えたい………
走馬灯のように蘇るAと過ごした記憶。
数ヶ月間にしては重く、深く、長い時間だった。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月26日 19時
