星を超えた想いを21【オリオンの刻印】 (ページ20)

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思い出のストラップページ20

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錆びれたドアの軋む音が誰もいない

更衣室に虚しく響く。

一足先に更衣室へと戻ったAは更衣室に入るや否や、ロッカーにライセンスカードを翳して、ロックを解除すると機械的な動作で淡々とユニフォームの裾に手を掛け、脱ぎ捨てた。

「………」

汗の独特の嫌な臭いがこべりついた

ユニフォームをロッカーの扉に掛けると

中に掛けていたハンガーからジャージを取り出す。

その時。ふと、備え付けられていた鏡の中の自分と目が合い、Aは視線を下へと落して露になった自分の白い肌を鏡越しに眺めた。

「……………」

純白のような白い肌に、咲き乱れた

紅い花はよく目立つ。自身の首筋に

手を伸ばし、付けられたばかりの痕を指でなぞる。

「みつ、る、くん………」

ぽつり、と呟いた名前は彼女しかいない

更衣室に響き、部屋の中で反響した。

最後に残した一星の印。

何度も噛まれたのは記憶に新しい。

それすらも受け入れて
彼の肩に手を置いていた自分自身の事も。

思い出すだけで、顔から火が出そうなほど恥ずかしいことだが、今のAにそんな気力はなかった。

「ひどい顔…」

鏡に映る自分を見て、自嘲気味に笑う。

何度も泣き腫らした瞼は、ぱんぱんに
腫れていて、瞬きをするだけでも
風が当たるだけでもヒリヒリとしていた。

目が真っ赤に充血して、眼球の底が痛い。

こんなに沢山泣く日は、もうないだろうと
A自身、そう確信しながら肺の底から
沸き上がった息を大きく吐く。

「目薬挿したら、少しはマシになるよね」

充血用の目薬を常備していたAは

バッグ開くと、上体を少し前に倒して

バッグの中を覗くような体勢で両手を

鞄に突っ込み、がさこそと音を立てながら漁る。

「あった」

整理整頓されていたとはいえ、下の方に沈んでいたポーチがデオドラントに埋もれて見え隠れしていた。手を奥に突っ込んで、ポーチを取り出した……

＿＿＿＿その時。

「あっ」

ポーチを取り出した拍子に、ポーチの
チャックに付けていたストラップが
ころん、と音を立てて床に転がり落ちた。

「ペン、ギン」

それは、海遊館の約束を守れず、その日に

一星が自分を突き放した際に投げ捨てた

プレゼントのペンギンのストラップだった。

必死になって守り、怒られて、打ち解けて。

ある意味、この一つの小さなマスコットが

キッカケで、距離が縮まったのかもしれない。