星を超えた想いを21【オリオンの刻印】 (ページ11)

今日:11 hit、昨日:5 hit、合計:228,187 hit

風と共にページ11

❀

＿＿＿後半も残り時間僅か。

円堂の後ろ盾もあり、日本は

ゴールのことを気にせずに全員がラインを

上げて、一星にボールを託すために

サウジアラビア選手達に波状攻撃をかけていた。

味方からパスを受け取り、ボールを爪先で転がしながら、助走をつけてドリブルを始め、フィールドを駆け出す一星の背中を、Aは明日人と共にアンドレアスに警戒を怠ぬまま見つめていた。

「えっ……」

「A、どうかしたのか？」

その時、Aは自身の目を思わず疑ってしまった。アンドレアスを同じくマークをしていた明日人から声が掛けられるが、彼女は固まったまま動かない。

「み、充くん…？」

太陽の光が強いほど、影は主張するように大きく伸びる。まさにその通りであり、Aは駆け走る一星の後ろ背からフィールドに伸びる影から、もう一人の彼そっくりなシルエットが浮かび上がってきた。

それは、紛れもない一星の弟＿＿＿光だった。

光は、兄である充の影から幻影のように

その姿を現すと、ドリブルを続ける

兄の隣を走り続ける。

「13、番………光くん」

幻覚に見えたが、やけに生々しく

Aのガラス玉の瞳に嵌め込まれた

艶やかな瑠璃色の眼には

楽しそうに笑い合い、ボールを

蹴り続ける二人の姿がハッキリと映っていた。

指で目を擦って見てみても、二人はそこにいた。

夢にまで見た世界大会のフィールドを

肩を並べて駆け走る一星兄弟の姿を

瞬きもせずに凝視していた＿＿＿＿＿その時。

Aの横を、突風が勢いよく吹き抜けた。

『ごめん………A』

「＿＿＿＿!! 」

風が通り過ぎた刹那、切なげな声が風に乗って確かにAの耳を掠め、脳へと流れ込んだ途端、彼女の瞳は夢見るように大きく見開かれた。

落ち着いていた心が、再び騒ぎ始めてしまう。

早まる鼓動に手を当てながら
体を勢いよく後へと振り返らせるが
そこには審判の姿しか見当たらなかった。

「(確かにさっき、充くんの声が聞こえて……)」

だがしかし、彼は今フィールドを走っている。

弟と共に、走っている。

しかし、幻聴にしては切なげな声がリアルで。

ざわめく胸の鼓動が嘘じゃないことを告げていた。

「しまった！」

明日人の切羽詰まった声で、Aは

一気に現実へと引き戻された。

二人がかりでマークをしていた

アンドレアスがぼーっとしていた彼女の

隙をついて、右サイドへと抜けていったのだ。