不意打ちの ページ50
❀
間もなく後半戦が開始されようとしていた
＿＿＿＿そんな中。
「充くん、大丈夫？」
苦しそうに胸元を握りしめ、ユニフォームを
手繰り寄せる一星に、Aは試合がまだ
始まらないことを確認すると一星の元へと歩んだ。
「気休め、程度にしかならないかもしれないけど」
緊張を少しでも和らげようと、Aは
胸元を掴む手とは反対の一星の左手を
そっと掴むと、自分の右手を合わせて
一星の指に自分の指を絡めるように握った。
「一緒に乗り越えようね
きっと成功する………大丈夫だから」
ふわりと柔らかく微笑んだAの笑顔に
一星は、激しかった動悸がおさまるのが分かった。
「………A」
「なに？」
「頼みが、あるんだ」
乱れた息を整えようと、肩を上下させる
一星の顔色を窺うようにAが覗き込む。
「キス……させて」
「は、？」
気の抜けた声を出したAは
口元を引き攣らせながら一星を見つめる。
「いいだろ」
「だ、ダメ！」
絡めていた手を引き寄せた一星との距離が縮まり、Aは恥ずかしそうに目を伏せる。
「……A」
「…………」
「…………A」
「そ、そんな子犬みたいな目でみないで」
動かないAの指先を、自分から
絡みあわせながら、子犬ボイスで甘えてくる一星。
「A。好きだ、A」
「み、充くん」
想いが通じたことでタガが外れたのか、あれから何度も「好き、好きだ」と告げてきていた一星に、そういう耐性がないAは、じんわりと耳を霜焼けのように赤く染めていく。
「間もなく後半戦が開始されます。
選手の方は、ポジションについてください」
ホイッスルの笛を左手に持った審判が
フィールドにいる全選手に呼びかけると
Aは審判を一瞥して、一星に視線を戻した。
「こ……こっち、向いて」
その声と共にAは、自分の唇に人差し指と
中指をぴとりと当てると、辺りを見渡し
誰も見ていないことを確認した途端
素早くその指を一星の唇に押し当てた。
「んっ…」
ふにっ、と柔らかい唇が突然、指で塞がれて
一星は瞬きをしながら、恥ずかしそうに
横目を逸らすAを凝視した。
「じゃ、じゃあ…ね」
関節キス、とはまた違う彼女なりの
表現の仕方に、一星は呆気に
とられたまま、逃げるように走る
Aの背中を見つめていた。
(こ、恋人、っぽかった、かな……今の)
(ぽかったんじゃない？)
(の、ののの、野坂くん！？)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月19日 19時
