覚悟 ページ47
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風丸に撫でられた手の温もりが残る自身の
頭を触っていると「Aちゃん」背後から声がして
Aはその声に弾かれるように後ろを振り返る。
「野坂くん？」
「気分の方はどう？」
「さっきよりは落ち着いた、かな」
そう………と、数秒だけ目を閉じた野坂は
そのまま引力に従うように
Aに近づいて、向かい合うように立った。
「覚悟を決めたんだね」
「……うん」
縁側で眠る猫さながらの穏やかな表情を浮かべると、短く返事をしたA。凛とした野坂の光の宿らない瞳が、すっと切なげに細められたことなど、彼女は知る由もないだろう。
「ありがとう、野坂くん」
「お礼を言われるようなことは何もしてないよ」
紡がれた、たった五文字の言葉。
「そんなことない。
あの時、野坂くんが諭してくれなかったら
きっと今頃、私は逃げてたと思う」
頬を少しだけ色づかせて微笑む、野坂が
好きなその笑顔すらも、今の彼には
先の尖った鋭利な矢が胸へと
突き刺さったような感覚しかわいてこなかった。
しかし、それよりも野坂が気になったのは
彼女の襟元の隙間から、可愛らしく
主張するように咲いていた"それ"だった。
「一星くんとキスでもしたの？」
「えっ、は？」
帰ってきた野坂の予想外の言葉に
Aは文字通り、目を点にさせて固まってしまう。
「な、何言っ、て……」
「したんだね。一星くんと」
質問ではなく、押しつけに近かった野坂の言葉。
かああっと茹でダコのように顔を赤く染める。
……………肯定だろう。
「痕もハッキリ見えてるんだよね、それ」
金魚のように口をぱくぱくさせているAに構い無く、野坂は左の首筋に咲く赤い花弁を指した。
「そんなに濃くつけるには
何回もやる必要があるはずだけど……？」
「こ、これは………充くん、が」
指摘された首筋を咄嗟に手で隠しながら、Aは目を稲妻のように左右に走らせて、狼狽する。
「大胆だよね。独占欲が強いのは知っていたけど」
居た堪れないのか、彼女は耳の付け根まで
霜焼けのように染めると、恥ずかしそうに俯いた。
「…………………………………妬けるな」
「？」
呟かれた野坂の声は普段よりも低く篭り
Aは聞き取ることができない。
「Aちゃん、顔上げて」
「えっ………………」
言われたとおりに、今まで俯かせていた
頭を上げると、彼女の視界には野坂の整った顔が
覗き込むような形で目の前まで迫っていた。
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月19日 19時
