一星、最後の選択 ページ5
❀
前半もまもなく終了を迎えようとしていた。
両チームがポジションに戻る中。
先にポジションに戻っていたAは
遠い目をしながら、意味もなく
晴れ渡る青い空の入道雲を見上げていた。
「………痛い」
胸に手を当て、ぽつりと呟いた彼女の声は
歓声に掻き消されて誰の耳に届くこともない。
腫れた瞼をそっと閉じれば、溜まっていた雫が
一筋だけ糸を引いて、瞳から頬へと流れる。
「A！」
その時。
あれ以来、心の中で整理をつけて黙り込んでいた
一星が、意を決して、ようやくAに声をかけた。
「どうしたの？」
頬に滑り落ちた涙を悟られぬよう、親指で拭ったAは、柔らかい眼差しで一星を見つめた。
「試合が………この試合が終わったら
先輩に、どうしても伝えたい事があるんです」
落ち着いた口調。改まった敬語。
迷いのない、決意を固めた揺るがぬ一星の
その瞳に、Aは何かを察してしまったのか
「……………うん」と切なげに目を細めた。
「大事な、すごく大切な話なんです。
これからのためにも、ちゃんとした
俺の気持ちを……………先輩に伝えたい」
"これから"その言葉がAの心を抉る。
胸元のユニフォームを手繰り寄せるように
強く掴んで、服が皺になるのも気にせずに
一星は、透き通るような蒼眼の瞳を輝かせた。
「…………………私もだよ」
えっ、と気の抜けた声が、一星の口から漏れる。
「私も……充くんに伝えたい事があるの」
「……！」
「きっと後悔すると思うから」
聞いて、もらえる？と儚げな影を残し
眉尻を下げて微笑むAに、一星は
頬を色づかせて、何度も首を縦に振った。
「ありがとう」柔らかく微笑んだ彼女に
一星の胸は締め付けられるように苦しくなる。
でもそれは、心地の良い苦しさだった。
いくらでも耐えられる苦しさだ。
「もしかすると、同じ………かも、しれないね」
ぽつり、と一星の横を過ぎ去った寸前に
小さな声で言われた、期待してしまうその言葉。
彼女の存在が、こんなにも一星の心を掻き乱す。
＿＿＿自分の心に正直になれ。
道は必ず、その先に見えてくる＿＿＿＿
その言葉を信じて、一星は一歩を踏み出した。
同時に、Aは足を踏みとどまらせた………。
(Aと、Aと一緒になれたら………なんて)
(この試合が、ずっと続けばいいのに……なんて)
＿＿＿そう思ってることを知ったら
あなた/あんたは……………どう思う？＿＿＿＿
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月19日 19時
