無人の病室 ページ26
❀
「えー……」と言葉を濁して咳払いをする趙金雲。
Aからの視線は相変わらず向けられた
ままだが、このままでは埒が明かないので
監督は話を踏み切るようにして、口を開いた。
「鬼道くんは、岩戸くんが文通していたという
手紙から、一星くんの弟が入院していると
される病院を"突き止めた"のです………！」
"突き止めた"そこを強調させて、口角を吊り上げる監督に、選手たちは互いの顔を見合わせ合う。
なんでも、数ある病院の中から絞り込み
"一星光"が入院している病院を割り出した
鬼道が、張り込んで病室に潜入をしていたという。
「ですが……………病室に光くんの姿はなく、結局その日一日、帰ってこなかったそうです」
肩を竦めて、残念そうに語った監督。
真っ先に反応したのは、当事者である一星だった。
「そんなはずはない…………！
光は、光は今もあの病院に…………！」
監督から告げられた衝撃の言葉に、一星は
弾かれるようにベンチから立ち上がると
狼狽の色を顔に表しながら、それを否定した。
そして、その同意を求めるように一星は
先程まで隣に座っていたAに振り返る。
「し、信じて！Aは、信じてくれるよな！？」
「……………………………………っ」
「な、んで……何で何も言ってくれないんだよ！」
唇を歪ませるだけで、返答のないAの
肩に両手を置いて、縋るように訴えかける一星。
「充くん…………大丈夫、だから」
「何が、何が大丈夫なんだよ！なぁ、A！」
A、A！と、泣きそうな声で
頭を俯かせるAの肩を揺さぶり続ける一星。
そして彼女もまた、膝に乗せていた手で
ズボンを握りしめながら、下唇を噛み締めていた。
「まさか、弟がいるってのも嘘なのか？」
一星の必死な姿と、弟のことに触れようとしない
Aに、疑念を抱きはじめる灰崎。
「いや。彼に"嘗て"兄弟がいた事に間違いないよ」
「かつて？」
野坂の言葉が意味するのは一つしかなかった。
彼らの言葉に
すると、今までAの肩を掴んでいた
一星が、急に片手で額を抑えながら
後ろに数歩ふらつき、膝から崩れ落ちてしまう。
「一星！」
「み、充くん……！」
胸元を握り、苦しそうに呻きながら
座り込んだ一星の元に、明日人とAが
血相を変えて駆け寄る。
(一星！大丈夫か？一星！)
(充くん！し、しっかりして、お願い充くん……！)
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月19日 19時
