演技 ページ22
❀
「だーかーら！あんたらが出たら
余計にややこしくなるだろうが！
混乱しちまってんじゃねぇか、こいつ！」
にこにこする吹雪と、きょとんとする風丸に
交互に指をさしながらヒロトが云った。
「ヒロト、仮にも先輩だぞ？」
「"仮にも"は余計だ」
フォローになっていないタツヤに、風丸が
片眉をぴくぴくと痙攣させながら注意した。
なんとも和やかで、緊張の糸が切れたような
ベンチで、Aは「えっ、と…」と
一星の背中を擦る手を動かしたまま当惑する。
「一星くんを庇って、気を失っていたんだよ」
「野坂くん？」
「因みに、試合もまだ終わっていない」
暫くぽけ〜っとした表情で前から
見下ろしてくる野坂を見上げていた
Aだが、頭の中で止まっていた記憶が
映画のフィルムのように流れ出した。
「そっか………私、あの時」
ようやく繋がった点と点。
無我夢中で一星を守ろうとした気持ちで
突発的に動いたAには、記憶が曖昧にしか
残ってはいなかったが、あの技を食らって
気を失ったというのは、容易に想像出来た。
「一星くん、君のこと心配してたんだよ」
「お前の名前呼んで取り乱すくらいにな！」
「充くんが？」
「剛陣さん、それは余計です」
ぴくりと片眉を上げた野坂がすかさず剛陣にツッコミを入れると「だって事実だろ」「事実ですが余計です」「何怒ってんだよ」「怒ってません」という言葉の投げ合いがAの目の前で飛び交う。
「あれ？でもそれとこれと、風丸さんと
吹雪くんがいる理由にどう繋がるの？」
小首を傾げるA。
「あれは演技だったんだよ、俺たちのな」
「演技？」
「野坂くんから頼まれて一芝居打ったんだよ」
風丸と吹雪は顔をお互いに見合わせると
クスリと笑い合い、頭にはてなマークを
浮かべるAに経緯を説明した。
「じゃあ、怪我は……！」
「してないよ」
「この通りな」
その場で駆け足をしてみせる風丸と
スパイクの先で地面をノックする吹雪にAは
ほっと安堵の息をついて、胸を撫で下ろした。
「充くんも、怪我してない？大丈夫だった？」
Aが鼻を啜る一星に問いかければ
彼は額を肩に擦り付けたまま頭を縦に振る。
「心配してくれてありがとう、充くん」
彼の涙の理由がわかったAは
ふっと頬を緩ませ、柔らかい眼差しを
一星に向けたまま、背中に回していた手を
頭へと移動させて、癖のある髪を
上から優しく撫ぜたのだった＿＿＿
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作者名：小雪
| 作成日時：2019年1月19日 19時
