星を超えた想いを16【オリオンの刻印】 (ページ8)

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引いてみろページ8

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スタジアムの、磨きあげられた長く続く

ほの暗い廊下を歩きながら野坂は

飽きずにチョコマーブルを取り出しては

定期的に口へ運んでいる。

「音のない空っぽのケースなんて

忍ばせていても、普通は入れる前に気づかれる」

そう言いながら胸ポケットに入れていた

もうひとつのピルケースを取り出すと

野坂は音を聞き比べるように二つの

ケースを同時に振ってみせた。

「これが不思議と音も同じなんだよね」

聞いてみて、と野坂が言うとAは

耳に当てながら耳を済ませる仕草をとる。

「本当だ」
「でしょ？」

一瞬振ってみるだけでは、中身を見ない限り

確かにその音に大差はあまり感じられなかった。

「だからフェイクになるものを入れたんだよ

むこうもまさか、ピルケースに

こんなもの入れてるとは思わなかっただろうし」

しゃかしゃか、と蓋の閉じている

ピルケースを振り続けると、まだいくつかある

チョコマーブルたちが輪唱するように音を立てた。

「でもだからって、なんでチョコマーブル？」

「空港で"たまたま"目に付いたんだよね、これ」

もう一粒摘んで口の中に放り込む野坂を横目にそれ以上つっこむ気にもなれずに「たまたま………ね」と言っていると、すっとAの目の前にピンク色のチョコマーブルが横から差し出された。

「Aちゃんもどう？」

「あ…………うん、ありが…………んっ!?」

そう言って、戸惑いながらも人差し指と

親指で摘むよう手を伸ばそうとするが

その前にチョコマーブルを唇に押し当てられた。

「口、開けて」
「……んんっ」

唇を塞ぐように押し当てられたチョコに

戸惑いながらも仕方なく野坂の言うとおりに

唇を控えめに開けると、こじ開けるように

優しく押し込まれる。

見た目の鮮やかなマーブル模様のチョコは

ミルクチョコのようなほどよい甘さと

まろやかなハーモニーで幸せ感を呼び起こす。

「もうひとつ食べる？」

小さく口を動かしてチョコを食べ終えた

Aにそう言いながら、野坂は彼女の

口元までチョコマーブルを持っていく。

「…………い、いらない」

ふいっ、と野坂から顔を逸らしたAの

耳は赤く染まっていた。

摘んでいた赤色のチョコマーブルは

まさに今の彼女を表すような色だった。

それが少しおかしくて、ふっと優しく

目を細めた野坂は口の中へと放り込んだ。

(野坂くんの指…………唇にあたった……)
(柔らかかったな……Aちゃん)