星を超えた想いを16【オリオンの刻印】 (ページ49)

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街路ページ49

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宿舎から飛び出してから、Aは

一度も立ち止まることなく走っていた。

傘をさしているというこもあり、何度も

人にぶつかりかけて、怒鳴られたりもした。

だが、今のAにはそんな声すらも
聞こえなくて、ただただ…………一星の
かわいい、後輩の姿を捜すことに無我夢中だった。

雨は寸分の隙間もなく天地を閉じ込め
コンクリートや草は濡れて、突風に
煽られるように草木は踊り始める。

雨の湿った匂いが街全体に広がり
人々の鼻腔を掠めては、風と共に通り過ぎる。

「お願い……………間に合ってッ！」

約束の時間から二時間以上経っていた。

いないことなんて、分かりきっていた。

だが、Aは身勝手にもその僅かな
可能性を信じて、駅前広場に辿り着くと
辺りを見渡して、喫茶店を探す。

「一星くん…………すぐ、行くから！
だから……………だか、ら…………ッ」

涙ぐんだ声で、叫んだAの声も雨音や

行き交う人々の会話に掻き消されて届かない。

走る度に打ち付けが激しくなる雨。

Aは向かい風に抗いながら走り続ける。

傘をさしていても顔にぶつかる大量の雨。

彼女の目から頬へと流れ零れた雫は……

はたして雨なのか…………それすらも分からない。

雨の筋が、強い風に煽られて

千切れたり、弓の弦のようにしなったり

するのが、ハッキリと肉眼で見える中

Aは、喫茶店の屋根下へと駆け込んだ。

「お、お願い…………いち、ほしくん…………」

傘を折りたたみ、それを傘立てにさした

Aは息をつく間もなく喫茶店の扉を

押して勢いよく中へと駆け込んだ。

「いらっしゃいま………せ」扉のカウベル

音に反応した店員の声が途中で凝り固まる。

それもそのはず………びしょ濡れになり

可愛らしく彩られたシャツワンピから

水滴がいくつも零れ落ち、綺麗な黒髪の

少女が膝につきながら息を乱しているのだから。

「お、お客様………どうかなされましたか？」

コーヒーポットから噴きあがっている

湯気が、低い天井に当たってゆっくり

店内に拡がる中、玄関先に佇んだまま

誰かを捜しているかのように辺り忙しなく

見渡す少女に、店員の女性が控えめに声を掛けた。

「あ、あの………いち、ほし…………一星くん！」

「一星……？」

狼狽した少女の口から紡がれたのは人の名前。

店員の女性が聞いた事のない名前に

首を傾げていると、少女はすぐに

はっとして「す、すみません………」と謝った。