星を超えた想いを16【オリオンの刻印】 (ページ48)

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傘ページ48

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朝、起きた時には晴天だったはずの

青空は、いつの間にかその見る影をなくし

太陽を呑み込んだ大量の暗い雨雲が

一斉に泣き出したかのような横殴りの

雨を降らし、廊下の窓を突き破りそうな

勢いで音を立てながら、降り続けた。

「雨……」

おさまるどころか、その激しさを

増して強くなり、宿舎の玄関前にできた

水溜りは波紋を作りながら次々と広がっていく。

「一星くん……」

靴を脱ぎ捨て、整えることもせずにAは新調したばかりのシューズに履き替える。彼女のその声は、雨音で掻き消され、玄関先に響くことは無かった。

扉に手を掛け、外へ飛び出そうとした＿＿＿その時

「傘も持たずにこんな雨の中、どこに行くの？」

落ち着いたソプラノの声がAの耳に届いた。
ゆっくりと、顔だけを声のした方向へと向ける。

「木野…………先輩」
「風邪、引いちゃうよ」

そこに立っていたのは、ヨネと共に

選手たちを裏で支え、Aが日頃から

世話になっている雷門の先輩＿＿＿木野秋だった。

「一星くんが…………待ってるんです」
「……うん」
「この雨の中、きっと一星くんも………」

傘、持ってない…………ぎゅっとドアノブに

掛けていた手に力がこもり、頭を俯かせる。

「Aちゃん」
「………」

名前を呼べば、Aは一瞬肩を跳ねらせてからおずおずとその顔を上げた。そして秋は、一歩、また一歩と彼女に近づくと、傘立てから青色の傘と桃色の傘を引き抜き、手に持つと彼女の前に差し出した。

「あなたが風邪を引いたら、それこそ

皆が心配しちゃうわ…………ヒロトくんも」

ヒロトの名前が出てきた理由が分からず

Aが不思議そうに首を傾げてると

「ヒロトくんも大変ね、気持ちわかるなー」

円堂に想いを馳せている身として、その

気持ちが分かる、と秋はそう思いながら呟いた。

「傘はちゃんと持っていって？
傘をさして、無事に戻ってくること！
一星くんと一緒に……………………ね？」

子供に言い聞かせるように秋がそう言うと

Aは目を瞬かせた後、秋と

差し出されている傘を交互に見つめて

そっと手を伸ばし、二人分の傘を受け取った。

「気をつけてね、外、すごい風だから」

玄関扉を開ければ、その名の通り風が

突風のように音を立てて雨の風向きを変える。

「…………はい、ありがとうございます」

傘を開き、肩に掛けて何の躊躇いもなく

Aは地を蹴り、降りしきる雨の中を走り出した。