シャツワンピ ページ47
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「A、どこいくの!?」明日人の声が
背中から投げ掛けられたが、Aの耳には
届かなかったのか、彼女は自動扉にも
関わらず、急かすように扉に手を掛け、横に
スライドして、ミーティングルームを飛び出した。
飛び出すように駆け出した廊下を走る途中
《廊下は走らないでくださ〜い》と
ご丁寧に音符まで付けられている
注意書きの張り紙を視界の端で捉えていた。
どこか引き締まらないその字は、監督の
個性が出ているな、と焦っているにも
関わらず、Aはそんな呑気な事を考えていた。
214号室 日暮A/
と、書かれた自分の部屋のネームプレートを
見上げて、確認をしたAは部屋の
ロックを解除すると、早歩きで
ズカズカと自室に足を踏み入れた。
「スマホと、お金と…………」
真っ先に、机に置きっぱなしにしていた
スマホを手に取り、机の引き出しから
ピンクパープルの大人なデザインの
財布を取り出したAは急いで部屋を後に
しようとしたが、不意に、椅子にかけて
あったシャツワンピースが目に止まった。
＿＿「この服気に入りました」＿＿
＿＿「なんで一星くんが気に入るの？」＿＿
＿＿「この服でデートしてください！」＿＿
今朝の一星との会話が脳裏に浮かび上がり
あの時、年相応の嬉しそうな顔で
微笑んでいた一星の顔を思い出したA。
彼女は、意味もなくイレブンバンドを
確認すると、シャツワンピースを手に取り
観覧車の中で彼に壊されたまま
直せていないジャージのスライダーの
付け根に手を掛けて、エレメントを下げた。
「似合う、かな…………？」
ウェストリボンを人差し指と中指で摘んで
きゅっと縛り、クローゼットの扉の内側にある
等身鏡に映る自分の姿を確認しながら
襟元を整えたAは、一星の顔を
思い浮かべて、照れくさそうに一回りする。
ふわっと、スカートの裾が花のように
広がり、アロマの香りが充満する。
「って………こんなことしてる場合じゃない！！」
どんなに急いでいても可愛く見られたいと
思うのが女の性なのか、Aは
はっと我に返ると、弾かれたように
クローゼットを乱暴に閉めて鞄を手に取り
最後に忘れ物がないかチェックをすると
自室を飛び出していった。
(今、すごい速さでAが通り過ぎたような……)
(可愛い服着てたよね、Aちゃん)
(野坂……お前よくあの一瞬で見えたな)
(それほどでもないよ、灰崎くん)
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作者名：小雪
| 作成日時：2018年12月23日 19時
