星を超えた想いを16【オリオンの刻印】 (ページ21)

今日:19 hit、昨日:10 hit、合計:293,474 hit

頑張れ一星くんページ21

❀

少年側に寝返りを打ち、蹲るように膝を

抱えていたAが伸びをして、手の甲で目を擦る。

頬をペちペちと叩いて「起きろー起きろー」

呪文のように何度も唱えれば、頭上の

ハエを追い払うように片手を振って

顔をしかめて嫌そうな声を上げられた。

「…………だ、れ…………」

瞼をうっすらと開き、眠気のこもった
甘ったるい声で少女が焦点の合わない目で
顔を覗き込んでくる少年を見つめる。

しかし眼を開けたはいいが、瞼に弾力が
なくて、扇子をたたむようにくぼんで行く。

「先輩の可愛い後輩の一星です」

「いち、ほし…………いち、ほし」

壊れた人形のように何度も繰り返して呟かれたその名前に一星は変に悪知恵が働き、悪戯っ子のような怪しい笑みを口元に浮かべると「充」と耳元で囁いた。

「充って呼んでください、先輩」
「ん……」

耳元に唇を寄せて、甘く、そう囁けば

擽ったそうに身を捩られる。

「充です」

「み、つ……………………」

"る"

その最後の言葉を聞き終わるまで、一星は

少し嬉しそうな顔をしながら無意識に

口元に弧を描いてベッドに頬杖をつく。

まるで主人に名前を呼ばれるのを待つ

犬のような、狼のような尻尾すら幻覚で

見えてしまうほど目を少しだけ輝かせて

ぶんぶんと振る少年…………の

「りん」

「お前わざとだろ」

期待を大きく裏切った。

上げて落とすようなスタイルをされた一星は

普段の声よりも何トーンも声を落とすと

ぼーっとしたままのAの頬を抓る。

「"おはようございます、先輩"」

「おは、よう…………」

不機嫌なオーラ全開で顔を顰めさせながら

どきつい声で圧をかけるように言えば

Aはぱちぱち、と何度も瞬きをしながら

視界いっぱいに広がる一星を見つめる。

そして、だんだんと目と頭が冴えてきたのか、今まで眠そうに瞼の上に蜘蛛が張っていたAの硝子玉の瞳が、糸が切れたかのように大きく見開かれた。

「い、いいいいい、一星くん!?」

「"い"が多いです先輩」

バネが弾けたように飛び上がり、そして一星の

顔を見るや否や、ずさささ、と音がするほど

後ずさったAに、一星は不満そうな顔をする。

「な、なな、なんでここにい……………いたっ!?」

手の甲に負担をかけてしまい、顔を歪めた

Aは力を抜いてしまい、体の支えが

なくなった彼女の体は重力に逆らうことなく

咄嗟に一星のジャージを掴んでしまい

巻き込むような形で滑り落ちた。