星を超えた想いを16【オリオンの刻印】 (ページ14)

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月明かりページ14

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月が氷のように冴え返った夜。

潮騒のような遠い蛙の声が、瞬く星を頼りなく

揺すぶり、輪唱するように湖畔に響き渡る。

そんな静かな湖畔のベンチでAは

悴む両手を温めるように息を吐いた。

息を吹きかければ、夜の寒空に白い息が

煙のように舞い上がって、風にさらわれた。

河口湖の湖面は、景色はそのままに映すのに

月の光だけはぼんやりと膨らませて映す。

そして、ジャージのポケットに手を入れて

徐に何かを取り出すと、拳をそっと開く。

中から出てきたのは紐の千切れたネックレス。

湖は風当りが激しくて海のように菱波が立ち

水飛沫が湖畔のベンチ前に少しだけとんでくる。

「(そう言えばなんで私、あの時…………)」

ネックレスを見つめながらAは

ふと、試合後の廊下での出来事を思い返す。

何をされるかなんて分かっていたはずなのに

不思議と体は野坂に抵抗をしなくて

唇を受け入れようとしていた。

「一星くんが来なかったら………」

その先を頭の中で想像してしまい、一気に

差恥が込み上げて頬に熱が集まるのを

感じたAは、ぴとりと唇に人差し指を当てた。

「………………したかった、の？」

野坂に触れられた下唇を撫ぜながら呟く。

あれから時間は経ったはずなのに

まだ、野坂の指先の温もりを感じた。

「何をだよ」

そんな彼女の独り言を、誰かが拾った。

「何をって、そりゃ、キ……」
「き？」

そこまで言いかけると、Aは顔を勢いよく

声のする方向へと振り向かせた。

「………ひ、ひひひ、ヒロト!?」

静けさに聞き惚れそうになるほどの静かな夜は

一人の少女の声により台無しにされてしまう。

自分以外、誰もいないと思っていた呟きを

寄りにもよって聞かれたくない人物に

聞かれていたからである。

電灯の明かりに照らされて暗闇から姿を

現したのは、コンビニ袋を腕に下げて

ガムを膨らましているヒロトの姿だった。

「な、ななな、なんでここにいるの!?」

ベンチから勢いよく立ち上がり、指をさすA。

「あ？お前こそこんな所で何してんだよ」

そ、それは…………と口篭ってしまった

Aは、くちゃくちゃと、ガムを口の中で

噛んでいるであろうヒロトのその音を

聞きながら「あんたこそ何してるの」

と話をそらすために聞き返す。

「見りゃわかんだろ、買い物帰りだっつーの」

腕に下げた、ヒロトのビニール袋の擦れる

音すらも静かな湖畔にはよく響いた。